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「貧困をバネに成功した」事例をロールモデルにしないために

佐々木俊尚×吉川ばんび 対談 #2

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貧困とは孤立なのかもしれないですね

佐々木 僕の中では貧困って、経済じゃなくて文化だと思っていて。今、僕は多拠点生活とか地方移住で色んな人と交流してますけど、最近では優秀な若者が地方で年収200万円ぐらいで生活しています。でも貧しいかというと、そうではないんです。

吉川 それはどうしてですか?

佐々木 社会資本がしっかりしているからですね。友達がたくさんいて、地元の農家さんや近隣の人と仲良くしているから、家に帰ると野菜が置いてあったり、魚をもらったり、食べるのも苦労しない。家もタダで提供してもらっていて「お金を使うことがないよね」、と彼らは言っています。

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吉川 地方で200万で生活してる人と、都会で200万で生活してる人とじゃ、おそらく生活が全然違いますよね。

 

佐々木 そうなんですよ。逆に言うと、東京で年収何千万円も稼いでいる人が、文化的に貧困な場合もあるんです。ある有名ミュージシャンが、詐欺師みたいな人と付き合いがあって、焼きそばUFOを食べながらドンペリニヨンのピンクを飲んでいるというエピソードが報道されたことがあります。まさに文化的貧困ですよね。

吉川 そう考えると貧困って、「孤立」なのかもしれないですね。助けてくれる人も、周りにいないんですよね。

佐々木 それはそうです。僕は貧乏な家に生まれて、新聞記者になって気が付いたんですけど、優秀な新聞記者は、頭がいいとか悪いとかは関係なくて、他人に取り入るのがうまいヤツなんです。絶対口割らなそうな、汚職してる町長とかに話を聞きに行って、自宅のピンポン押して、そこでいきなりパッと中に入れる人がいるの。そういうコミュニケーション能力がすごい人って、見ていると育ちがいいやつが多い。

吉川 あ、それは分かる気がします。

佐々木 それって何でかというと、裏切られた経験がないからなんですよね。貧乏人の息子は「こんな風に取り入って近寄ったら嫌われるんじゃないか」と思って近寄れないんです。自分が人を信用していないから、他人もそうだろうと思ってる。

 

親から「恥ずかしいから外で言うな」ときつく言われた

吉川 「助けてくれないだろうな」って思ってるんですよね。自己肯定感も低いし、ほとんどが「自分で、自分の家庭でどうにかしよう」って考えてるというか。

佐々木 確かに。そういう人ほどホームレスに転落するケースが多いですよね。誰にも相談できないで、セーフティネット全部ぶち切って落ちていくっていう。

吉川 普通は、そこに至るまでに何かしらありますよね。

佐々木 そうそう。相当孤立しないとそうはならないでしょうし。どうせ言ったって救ってくれないだろうって思ってるから誰にも言えない。

吉川 私も誰にも言えなかったです。親から「恥ずかしいから外で言うな」ってきつく言われてたので、そういうもんだと思ってたんです。殴られてあざになっていても、「ものにぶつけたって言いな」と言われて。中にいる人たちは、家庭の外に問題を出そうとしないんです。

佐々木 それって学校のいじめ問題とまったく同じ構造ですよね。問題を表沙汰にしたくない学校の校長先生がよく「みなさん仲良くしましょう」とか言うけど、「そんなこと言うから、またいじめが起きるんだよ」と思うよね。風穴開ける方が大事ですよね、外側に向かって。

吉川 風穴を開けることでしか解決できない問題もありますよね。中が全部膿だらけになっちゃって。何が起きているかを知ってもらって、本人たちに治療する気になってもらうことが、問題解決への第一歩になるんですよね。

 写真=釜谷洋史/文藝春秋

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