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「あと5分で……」羽田空港で“旅券返納命令”を手渡されて――常岡浩介インタビュー

日付が手書きのFAXだった

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旅券が無効になるはずの「返納期限」は、23時20分

――「一般旅券返納命令書」の一部は、手書きなんですね。

常岡 ええ。日付や返納期限(返納するべき日時)が手書きです。想像するに、事前に書類が用意されていて、私に返納命令を出すことはわりと早く決まっていたということなのではないでしょうか。「2月」の「2」の数字も手書きなので……。誰によって出された命令なのかと思えば「外務大臣」。名前も書いてありません。公印もない。

「一般旅券返納命令書」の一部

――まずこの文書を見て、どんな感想を持ちましたか。

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常岡 旅券が無効になるはずの「返納期限」は、「平成31年2月2日 午後11時20分」と書かれているんです。FAXが到着したのは23時15分ですから、あと5分で無効になる。しかし実際には、自動化ゲートを通過した時点で、私のパスポートは「登録」されていなかったのです。

――そちらの文書は?

常岡 これは5日後の2月7日になって私の家に届いた、東京入国管理局長名で出された手紙です。自動化ゲート利用希望者登録が抹消された理由として「外務省から、貴殿の所持されていた旅券が失効した旨の連絡があったため」と書いてあります。ただ外務省からいつその連絡があったかは、書いてありません。いずれにせよ、私が旅券返納命令を受けるより先に、私のパスポートが失効していたことは間違いありません。

「自動化ゲート利用希望者登録抹消・個人識別情報消去通知書」

本人への通告も聴聞も、何もなかった

――事前に通告がなかったことについては、どう考えていますか?

常岡 手続きがことごとく、すっ飛ばされていて非常に遺憾です。シリアでの取材を計画して、2015年2月に旅券返納命令を受けたフリーカメラマンの杉本祐一さんの場合は、杉本さん本人に対して直接、返納命令を伝えているんですよ。ただ、杉本さんは本来行われるべき本人に対する「聴聞」が行われていないという主張をして、最高裁で争ったのですが昨年3月に敗訴が確定しています。私の場合は、本人への通告も聴聞も、何もありませんでした。

――旅券法13条1には旅券発給をしないことができる対象として「渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者」が挙げられ、19条では該当することが判明した人に対して旅券の返納を命ずることができる、とされています。

常岡 今回のケースは、正しい旅券返納命令の運用と大きくかけ離れていると考えています。一般的に、オマーンで入国禁止と言われた人は、またオマーンへ行ったら迷惑になるので、「保護法益」のために旅券返納命令を受ける。ただ、私の場合はオマーンを経由する予定すらなかったのですから、これは当てはまらないと思います。

 もし外務省が、私がイエメンに取材へ向かおうとしていることを事前に察知したから旅券返納命令を出したというのであれば、「イエメンは『退避勧告』(外務省による海外安全情報で4段階のうち最も高いレベル4)に指定しているので、渡航をやめてください」と事前に説得する義務があると思うんですよね。

 

――2月2日は、長い一日でしたね。

常岡 深夜、日付が3日に変わる頃に解放されて一旦、帰路に着きました。空港で弁護士とはやり取りをしていまして、私はFAXで返納命令書を受け取ったあと「返納命令を拒否したいです」という旨を電話で、外務省の旅券課の担当者に伝えています。それから実は、返納命令に違反した場合の刑事罰は、かなり重いんですよね。「5年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」となっているので、「これはどうなりますか」と聞いたところ、「警察への通報を検討いたします」ということを言われました。

 ただ、返納命令の前にパスポートが失効していたということは、裏を返せば「有効なパスポートを持っていない人に返納命令が出されている」ということになり、外務省も警察も実際に罰則を適用するよう動くことは難しいだろう、と判断しています。