藤澤五月に投げ勝った次世代の天才
確かに北澤は努力家というよりも天才タイプだ。高いデリバリー技術を持ちながら、メンタルが崩れた姿を見たことがない。大きなミスをしても「『やっべ』って焦ったけど、なかったことにして次のショットに集中しました」と即座に切り替える胆力も備わっており、チームが大敗していても「私(のショット)は決まっていたから」と試合後にコメントしたこともある。
とにかく投げること、特に難しい局面を一投で打開してしまうような難易度の高いショットを好み、決めてきた。昨年3月のミックスダブルス日本選手権では初出場ながら、ロコ・ソラーレ藤澤五月と投げ合って準優勝。今年2月の日本選手権では全勝優勝するなど、投げ勝った。今や国内屈指のフィニッシャーに成長した。
「教えなくても身体の使い方は上手でしたね」
ただそのぶん、北澤はショットの繋がりやエンド構築といった戦略的な組み立てには、フィニッシュほどこだわりがないようにも映る。いよいよデンマークで世界選手権が開幕するが、練習嫌いの才能任せで勝てるほど、世界のアイスは甘くないだろう。
中部電力としては2012-13シーズン以来、6年ぶり2度目の世界戦だが、北澤や中嶋、石郷岡にとっては初挑戦だ。今季からチームのコーチに就任した平昌五輪男子代表スキップ・両角友佑は出発前、こう展望を語ってくれた。
「当たり前なんですけど、世界戦は強いチームが揃う。もちろんチャンスはあるけれど、今の技術、戦術で勝てるかどうかは分かりません。でも負ければ足りないものが何か、自分たちが一番、感じるだろうし、勝てたら勝てたで自信がつく。そうやって世界と戦って成長するしかない。今回の世界戦がチームにとってマイナスになることはないので、そういう意味で僕は楽観しています。
育恵が練習嫌い? うーん、確かに自分から進んでランニングするとか、地味な体幹トレーニングを誰よりもこなすというイメージはないですね。でもジュニア時代から誰よりもアイスに乗っていると思いますよ」
北澤がカーリングを始めたのは中学時代、14歳だ。新体操の経験があり、両角と共にジュニア時代から彼女を指導していた同じく平昌五輪代表の山口剛史は「やはり体幹の強さや柔軟性の部分で人より優れている。教えなくても身体の使い方は上手でしたね」とそのポテンシャルを認めていた。
当時はまだ1998年の長野五輪でカーリングの会場として使われた「スカップ軽井沢」が現役で(現在はプールとしてリニューアルされている)、北澤らが競技をスタートさせたのはスカップだったが、2013年に中部電力のホームリンクである通年型の「軽井沢アイスパーク」が完成した。