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「うるさいっすよ、みんなよく喋るから」

 2月の日本選手権で松村は改めてスイープの能力の高さを見せつけた。パワフルなスイープそのものだけではなく、ストーンのスピードと回転、それらをアイスの状況と瞬時に照らし合わせる。その挙動を誰よりも早く察知し、必要な情報を提供し続けるチームの眼として機能した。大会MVPは北澤だったが、圧巻のパフォーマンスから「千秋こそMVP」という声が現場の男子選手から挙がったほどだ。

北澤は大会MVPを獲得。スポンサーの全農から「全農賞」として北海道のブランド牛が贈られた。

 その松村はメディアの前でも「私は縁の下の力持ちでいい」と語っているが、そのセリフを石郷岡が「いや、単純に力持ちです」と混ぜ返したことがある。松村は「嫌だ、そんなのパワフルなだけでなんか可愛くないじゃん」と笑いながら訂正していたが、年齢やキャリアなどは関係なく、自然にコミュニケーションを取ることができるのも中部電力の大きな武器だ。両角コーチが「うるさいっすよ、みんなよく喋るから」と苦笑いしていたが、チームの雰囲気も良い。

「同い年で一番、上手い選手ですから」

 その石郷岡はチームで唯一、長野県以外、青森県出身の選手だ。偏差値70を超えの青森高校の在学中に中部電力から誘いを受ける。しかし、何せ県下随一の進学校だけに進路の幅は広い。中部電力側も「ゆっくり考えてください」という慎重なオファーを出した。本人は「ちょっと悩みました」と振り返る。

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「カーリングがなければ、英語を勉強したかったので進学か留学を考えていました。ただ、実際に進学して大学を卒業した後に、就職のことまで含めて考えると『好きなことを続けられて、かつ仕事もできる』という環境は恵まれているなと思った。英語は独学で勉強するから、いいかなって」

 そして、軽井沢に向かう決断の影には北澤の存在もあったという。

「同い年で一番、上手い選手ですから一緒にやってみたかった。私はリードというポジションが大好きでこの仕事に誇りを持っているけれど、それで貢献できたら楽しそうだなと思いました。日本選手権は私が単純に下手で迷惑かけたけれど、世界選手権ではしっかりセットアップしたい。そうしたら世界のチームともいいゲームができると思う」

 遊びの延長かもしれない。アスリートとはまだ呼べないかもしれない。しかし、通年型リンク完成後にカーリングにのめり込んできた北澤や中嶋らの次世代カーラーは、確実に頭角を表しつつある。

今年2月の日本選手権(札幌)。両角コーチ就任半年で日本一という結果が出た。

 その才能を認めつつ見守る両角や松村、その才能に惹かれチームに加入した石郷岡。彼女らの存在も含め、中部電力が今回、世界選手権で残す結果は、日本のカーリングの成長の歩みとも言える。世界でどんな戦いぶりを見せてくれるだろうか、様々な意味で注目したい。

写真=竹田聡一郎