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「ワンフレーズ」の原点は父親との会話

 ちょっとブラックな言い方になってしまいましたけれど、小泉さんはその話術をどこで会得したのでしょうか? 私のこの質問にこう応えました。

「父親が結婚式から帰ってくるたびに『今日の主賓のあいさつは長かった』……そればかり聞かされてきたもんだから、どうすれば短く簡単に伝えることができるのかを、自分なりにひたすら研究してきたんですよ」

 父親というのは小泉純也さん。防衛庁長官をつとめた政治家でした。

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 現在の小泉純一郎さんは悠々自適の生活で、5時前には必ず目が覚めてしまうとか。それから二度寝をする。午前中は一切仕事を入れないそうです。普段は、月に4回ほど反原発集会に呼ばれて反原発論をぶってくる以外は、オペラに行ったり歌舞伎に行ったり映画に行ったり、本当に優雅な暮らしぶりです。

 たった1人で対談場所である文藝春秋の社屋に現れて、終わったらたった1人で去っていく。秘書のような人間もいない。これはかっこいいなと思いました。

ブッシュ米大統領(当時)とも良好な関係を築いた ©共同通信社

「自民党をぶっ壊す!」の“誤解”

 あの小泉旋風とは一体何だったのか、彼が現役のときの仕事を一つひとつ点検していきましょう。

 2001年、森喜朗内閣の退陣を受けて行われた総裁選での彼のワンフレーズ、皆さん覚えてらっしゃいますよね。「自民党をぶっ壊す!」──。自民党員でありながら、自民党をぶっ壊すってどういうこと? 誰しも首をかしげたはずです。でも、既成秩序をぶっ壊そうとする破壊力だけは何となく伝わってきて、その破壊力に期待を寄せた人も少なくなかったはず。現に小泉さんは、最大派閥を率いる橋本龍太郎を打ち破って総理にのぼりつめたのです。

 実は、あの言葉の前後の文脈を見てみると、こうです。

《もし改革を断行しようとする小泉を自民党がつぶそうとするのならば、その前にこの小泉が自民党をぶっ壊します》

 お分かりですか? その後段だけが切り取られて独り歩きしたのであって、自分をつぶそうとするならそれに反撃するぞ、と言ったにすぎません。この誤解によって彼の破壊力に期待した人たちがいっぱいいた。それが小泉フィーバーの正体ではなかったのか。

自民党本部ビルに掲げられた巨大な垂れ幕(2001年6月) ©文藝春秋