池上彰さんが戦後日本の代表的人物を選び、彼らを通して「戦後」を読み直す、連続講義「“戦後”に挑んだ10人の日本人」 。毎回受講生を募り、文藝春秋にて公開授業として実施しています。
今回はそのなかから、「小泉純一郎」(第3回)の講義の様子をご紹介します。
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安倍さんは小泉さんの遺産を使っている?
この授業の通しタイトルは「“戦後”に挑んだ10人の日本人」というものですが、人によって挑み方にもいろいろあります。小泉純一郎という人が挑んだ戦後って何だろうか?
彼は、郵政改革のように、戦後にかたち作られ、それが当然と思われていたものに対して異議を申し立て、それに反対する者は抵抗勢力だとして斬り捨ててきました。そうした手法には毀誉褒貶もありますが、やはり「戦後に挑んだ」と言えるのではないか。
彼は高い支持率を得ました。演説が非常に巧みだとも言われました。あるいはポピュリズム政治家なんていう言い方もされました。そして、その高い支持率によって、いわゆる官邸主導型の政治を実現したのです。
そして今、安倍さんがそれに似たことをやっていますが、少し違っているところもあります。それは、首相が強い力を持ったがために、官僚たちが「忖度」する場面が多々見られるようになったからです。安倍さんは小泉さんの遺産を使っているのか、それとも食いつぶしているのか。子細に見ていくことにしましょう。
「ボキャブラリーの少ない人だな」
実は最近、小泉さんご本人と対談をいたしました(『週刊文春』2018・8・16/23合併号)。ご興味があればそちらをお読みいただきたいのですが、ここでもそのエッセンスにふれることにいたします。
会ってみて、この人は語彙──ボキャブラリーの少ない人だなと思いました。彼はよく一言で物事を表現しますよね。難しい言い回しはせずに印象的なワンフレーズで片付けたり、主語と述語だけだったり。例の大相撲を観戦したときに発した「感動した」の一言もそうでした。
この、非常に短い言葉でもって自分の政策なりメッセージなりを国民に届けることを「ワンフレーズ・ポリティックス」と呼びます。しかし小泉さんの場合は、語彙が少ないがゆえなのかな、トランプさんのツイートとも相通じるところがあるのかなと、対談のときにふと思ったんです。なまじ語彙が豊富にあると、ついつい難解な言葉を使ったり、技巧に走ったりして、相手の心には届かないものです。その点、彼はたぐいまれなる天性によって、語彙の少なさをプラスに転化させた人ではないのか。