──離乳食で悩むママはそんなに多いのですね……。
飯田 多いですね。厚労省の調査で、4人に3人が離乳食で悩んでいるというデータがあります。私のように、「食べてくれない」という悩みもよく聞きますし、ほかにも、「時間がなくて作れない」「マンネリ」「栄養バランスの不安」など、いろいろな悩みを聞きます。
とくに栄養面で不安に思っているママたちが多く、最近は「新型栄養失調」という言葉もよく聞きます。食事によるカロリーは足りているのに、ビタミンやミネラルなど、成長に必要な栄養素が不足している状態をさす言葉なのですが、「8割の子どもに新型栄養失調のリスクがある」と、ある食品メーカーが発表したことで、注目を集めました。
どんぶりなどの単品メニューや、お惣菜、お弁当などの摂取回数が増えたことなど、食生活の変化による「生活習慣病」の若年化も近年の傾向です。こういう話を聞く度に、社会には食のインフラが必要なんじゃないか、シェアダインが、家族全員の健康で豊かな食事を見守る「かかりつけシェフ」としてその役割を担うべきなんじゃないかと思っています。
「電子レンジでチン」を料理だと思っている子どもたち
──実際に利用した方からは、どんな反響がありますか。
飯田 私たちも驚いたのは、「便利だった」という声よりも、「野菜嫌いの子どもが食べるようになった」「新しい味の発見ができた」という、悩み解決の声が多いことです。レシピを教えてほしい、またあのメニューをつくってほしい、という声も多く、シェアダインは家事代行とお料理教室の間くらいの位置づけなのかもしれないと考えています。
子どもに「料理を手伝いたい」と言われても、忙しいし大変だからと、いつも断らざるをえず、自分を責めていたというママが、シェアダインを利用して子どもと一緒に料理をつくって笑顔を取り戻せたという声は、私たちもすごく嬉しかったです。
お惣菜やお弁当など、「作らない選択肢」が増えたので、料理というと電子レンジでチンをすることだと思っている子どもや、水族館に行って、「お魚だよ」と言っても、「普段食べている魚とは違う」と言い張る子どももいます。そんな子どもたちに魚をさばくところを見せ、命のありがたみを感じとってもらおうと「お魚コラボ」という企画を考えたこともありました。ただプロに食事を作ってもらうだけで終わらせないところが、シェアダインのめざすところです。
母親の罪悪感の正体とは
──各家庭に「かかりつけシェフ」がいることで、料理のレパートリーが広がったり、料理に対する意識が変わったりするというのは、確かにこれまでの「家事代行」とは違う気がします。
飯田 いま、人気美容室の月額定額サービスや、保育士など有資格者のみのベビーシッターなど、プロが身近になるサービスが増えています。
結局、ママが感じる罪悪感って、社会の空気感だと思うんです。「母親が料理を作るのが当たり前」という空気感や、「お金を払って料理を頼むなんて、贅沢で母親失格」という偏見がすぐになくなるとは思っていませんが、食卓にも、「プロの知見を入れること」が当たり前になれば、少しずつ、社会の空気は変わっていくのではないでしょうか。私たちは、そんな「一世代先の食卓」を一緒に創っていけたらと思っています。
(#2に続く)
写真=鈴木七絵/文藝春秋