カープによって季節のうつろいを感じてきた。優勝マジックのカウントダウンとともに秋が深まり、ビール掛けの寒さが冬の到来を告げてくれる。ここ3年、実に幸せな暦を刻ませてもらっている。

 春、別れの季節である。私の仲間も広島を離れた。ファームの由宇練習場の車を走らせ、キャンプ地日南では痛飲した男だ。仕事の進め方に叱咤したこともある。新天地での希望もあるとはいえ、その決断を伝えてくれたときの複雑な表情は忘れられない。

「チームを離れることを伝えるときは、寂しさもあり、頑張ろうという気持もあり、何とも言えないものでした」。そう話すのは、2014年、FAの人的補償でカープに移籍してきた一岡竜司である。

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 もちろん、野球人生のビッグチャンスであるが、人の感情は単純なものではない。仲間がいた。ジャイアンツに同期入団の今村信貴だ。

「寮も隣部屋で仲が良かったです。二軍のときも、彼が先発で僕が抑え、そういう信頼関係もありました。イースタンで彼がノーヒットノーランをしたときは、自分のことのように嬉しかったです」

 一岡は、家族の次に、この盟友に移籍を伝えた。鮮明には記憶していないが、「自分も頑張ります」と言ってくれた言葉だけは覚えている。

2014年、FAの人的補償でカープに移籍してきた一岡竜司 ©文藝春秋

ルーキー・島内が大瀬良から学んだこと

 春、出会いの季節でもある。真新しいユニフォームで目を輝かせるのが、ドラフト2位ルーキーの島内颯太郎だ。オープン戦6試合で自責点ゼロ、開幕一軍入りも果たした。自己最速の154キロもマークし、乗りに乗っている。

 目の輝きの要因は、試合の結果だけではない。九州共立大学の先輩であり、憧れの最多勝投手が目の前にいるのだ。

「大瀬良(大地)さんの存在が大きいですし、気にかけて下さいます。学ぶことは多いです」。

 既にプロ5年のキャリアがあり、最多勝にも輝いたエースだが、謙虚な人柄はカープファンも知るところである。ルーキーにも、考えを押し付けることはない。「まず、どうだったか意見を聞いて下さいます。その上で、アドバイスをしてくれます」。

 それだけではない。球界のトップに上り詰めながら、実にバランスの取れた助言も後輩に与えている。「いろんな先輩から話を聞きなさい。その中で、自分に合うものをやってみればいいよ……」。背番号14の柔和な笑顔が浮かんできそうである。

 早速、大瀬良を参考にしていることがある。ストレッチだ。「これまでは、ウォーミングアップの時間が動き始めでした。そういうものかと思っていました。でも、大瀬良さんらは、その前にストレッチなどでしっかり準備を行っておられます」。

 それ以来、島内もストレッチなどを行ってから、ウォーミングアップに臨むようになった。体の動きはまったく違う。自己最速も、オープン戦の好投も、無縁ではあるまい。

開幕一軍入りを果たしたドラフト2位ルーキーの島内颯太郎

 しかし、大瀬良に最初に会ったのは、カープ入団後ではないという。「大学1年のとき、大瀬良さんがチームに挨拶に来られました。そのとき、同部屋の先輩に頼まれて、大瀬良さんのお弁当を買いに走った経験があります。覚えてはおられないと思いますけど」。

「え、まったく覚えてないです。確かに、お弁当。昼食ですよね。でも、島内が? 覚えてないです。すいません」

 大瀬良の素直な反応は微笑ましい。しかし、大学1年生とプロ野球選手、その距離感たるや大河のようなものかもしれない。

 そんな二人が、今、同じチームで日本一の夢を追っている。二人による完封リレーも夢ではない。