もはやZOZOマリンスタジアムの名物の一つといっても過言ではない。近藤晃弘氏、42歳。この球場でソフトドリンクの売り子を務め24年目となる。コーラ、ウーロン茶、そしてホットドッグ。時にはコーヒーも売る。

「いつの間にか24年目になりました。高校野球でデビューしました。夏の県大会決勝。銚子商業対拓大紅陵戦です。銚子商業には後にマリーンズに入る澤井良輔選手がいました。当時は西の福留孝介(現阪神タイガース)。東の澤井と言われていましたよね」

ZOZOマリンスタジアムで売り子を務めて24年目となる近藤晃弘氏 ©梶原紀章

名物売り子の原点となった試合

 近藤氏は懐かしそうに95年のデビュー戦を振り返った。高校を卒業したばかりのことである。この日、満員に膨れ上がったスタンドで近藤氏はソフトドリンク200杯を超える売り上げを記録した。ただプロ野球デビューはもう少し先の事。99年である。鮮明に覚えている試合がある。この年はライオンズに入団した怪物・松坂大輔投手がデビュー。松坂が先発するとなるとどこの球場は満員となった。マリンも同じ。4月21日のライオンズ戦。平日にも関わらずスタジアムは3万5000人で超満員。試合はマリーンズのエースでジョニーの愛称で親しまれる黒木知宏投手との投げ合いとなった。この試合で4番指名打者だった初芝清内野手は0-0の均衡を破る本塁打をレフトスタンドに叩き込んだ。これが決勝点。今でもマリーンズファンが語り継ぐ伝説の試合の一つである。

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「凄い本塁打だった。そして凄い熱狂だった。あの1本で試合も勝った。忘れられない。それ以降のライオンズとは数々の激戦を繰り広げられてきた。特にロッテのエース黒木さんと松坂は名勝負が多いんです」と近藤氏も熱く語る。

 それからだ。売り子として販売をするだけではなく応援をするという面でもマリーンズの虜となった。ZOZOマリンスタジアムで試合がないときにビジターに応援に行くこともある。最近ではメットライフドームのライオンズ戦を観戦した。基本は外野で声を枯らしながらの応援。それがスタイル。こうしてマリーンズ愛も深まったゆえにスタジアムでの仕事も熱が入った。売り子も気が付けば24年目に突入した。都内でパティシエとしてケーキや焼き菓子を作っていた時期もあった。ただ、今は売り子がメイン。試合のない日は派遣の仕事をしているぐらいだ。

内気な自分を捨て去り、誰よりも大声を

 近藤氏の特徴は「コーラーとウーロン茶、ホットドークはいかがっすか?」と響き渡る声。代名詞である。これも最初からではなく徐々に作り上げてきた。

「最初はなかなか気が付いてもらえずに、どうしようかと考えた。だから声を出そうと。やってみると、まったく売り上げが違った。こうやって売ればいいのかと分かった」

 どちらかというと派手なタイプではない。人見知りだ。しかし、それでは売れない。だから自分の殻を大きく破った。そして誰よりも大きな声を出した。それは喉の奥底から響き渡るような声だった。すると不思議と売れた。注目が集まり、評判は広がっていった。人生ちょっとしたことで道は開ける。近藤氏は内気な自分を捨て去り、声を出すことで今やマリーンズファンの多くが知る名物売り子となった。

「常連のお客様がつくようになりましたし、『応援しています』と言われることもあります。嬉しいですね。今年はホームランラグーンという新しい席も出来た。そこで新規のお客様と出会う事も出来ている。毎日が楽しいです」