特急列車の愛称に鳥の名前がいくつかある。東北新幹線は「はやぶさ」、上越新幹線は「とき」、北陸新幹線は「はくたか」、九州新幹線は「つばめ」など。空を飛ぶ鳥は速さのイメージにピッタリだし、飛ぶために進化した姿は美しい。特急列車、看板列車のイメージにピッタリだ。
海岸を「かもめ」が走り、沖に「かもめ」が舞う
長崎本線を行く「かもめ」も速く、美しい。とくに「かもめ」のために製造された「白いかもめ」こと885系電車のカッコ良さ。まるでロケットのような先頭車両。振り子式車体を傾け、6両編成でカーブを走り抜ける姿は幸福の白い蛇か。いやいや、白い編成美は「かもめ」のイメージにピッタリだ。長崎本線の肥前七浦~長里間は有明海の海岸に沿って走る。青空と青い海を背景に、海岸を「かもめ」が走り、沖に「かもめ」が舞う。
「かもめ」は博多~長崎間の特急列車として40年以上の歴史がある。現在は博多~長崎間を定期列車が24往復。ほかに博多~佐賀間の区間列車や臨時列車も多数。しかし、「かもめ」という列車名の歴史はもっと古い。初登場は戦前の1937(昭和12)年7月だ。東京~神戸間の特急列車として「鷗(かもめ)」が生まれた。もう80年以上も前になる。
「燕」と「鷗」は姉妹列車だった
鉄道ファンのバイブル『列車名大事典』(寺本光照著)によると、「鷗」の下り列車は東京発13時。大阪着21時20分。神戸着21時57分。上り列車は神戸発8時23分。大阪発9時。東京着17時20分だった。このダイヤは東京発9時、大阪発13時の「燕(東京~神戸)」と対になっている。当時、「燕」のほか「富士(東京~下関)」と「櫻(東京~下関)」の東海道本線特急は大人気で、その混雑を解消するために追加された特急が「鷗」だ。「燕」と「鷗」は姉妹列車だった。
ただし「鷗」は「燕」に連結された展望客車がなく、所要時間もすこし長かった。先輩特急列車の「燕」「富士」「櫻」に比べて日陰者のような扱いに見えたという。そんな「鷗」にも1940(昭和15)年に展望車が連結され、やっと一人前扱いされた。と、思ったら、1943(昭和18)年2月に廃止されてしまう。戦時ダイヤの始まりだった。