タモリさんの「そーですね!」はこうして生まれた
<『いいとも』で、ある時期から恒例になっていたタモリが問いかけ観客が「そーですね!」と返すコールアンドレスポンスや拍手のあと「チャ、チャッチャッチャ」と合わせる約束事は、じつは片岡飛鳥がAD時代にやっていた「前説」から生まれたという。前説とは公開番組の本番前に観客に注意事項などを説明すること。観客のムードを温め、笑いやすい雰囲気にすることも大きな役割だ。他局では前説は若手芸人が行うことが通常だが、『いいとも』ではADが担っていたという。>
前説って芸人さんがやるのが一般的と思われがちですけど、お客さんのムードを作るのも、どんなお客さんが来ているのか知るのも、制作者の仕事だというフジテレビの文化があって、必ずADが前説をやっていたんです。だから、たとえば『ひょうきん族』が公開収録をやるときもそうだったし、お正月の『爆笑ヒットパレード』でも『めちゃイケ』の客入れ企画でも最後までそうでした。僕はそれもプロの仕事のひとつだと教えられて育ったんです。だから、たとえADでも他の人と似ていないオリジナリティがあったほうがいいと思ったんじゃないかなあ。
当たり前だけど、前説って「前に説明すること」。あの『いいとも』で前説をやるってなったときに、しっかり説明できるように練習をしたほうがいいと思って。当時の新宿・河田町にあったフジテレビ社屋には、一番上に登ると大きな富士山の画が貼ってある大きな円卓会議室があったんです。夜中になるとそこの窓が鏡張りみたいになって、自分の姿が映る。全部の仕事が終わるとそこに行って、恥ずかしながら前説の秘密特訓をしてました(笑)。真っ暗な会議室で1人で大声出してますからね……最初は警備員さんに異常者が侵入してると思われて(笑)、事情を説明して続けているうちに「ああ、今日もやってるんですね」みたいないい関係になったりしました。
「今日は天気がいいですね?」って言ってお客さんに「そ-ですね!」と返してもらう。「明日は雨が降るらしいですよ」「そーですね!」。ちょっと変化をつけて「スカッとさわやか」と言ったら「コカ・コーラ!」って返ってきた。これは使えると思って色々やってました。AD時代に自分で作った台本、まだ覚えてる(笑)。
するとほどなくして、その前説をタモリさんが「テレフォンショッキング」の冒頭でなぞってくれたんです。今考えれば僕の拙い前説をイジってくれたのに近いかもしれないですけど。そのうち地方からのお客さんにとっても「東京に来たからには、アルタに行って『そーですね!』と言って帰りたい」みたいな観光ノリになっていった気がします。でも若いから怖いもの知らずで、ベニヤ板のセット1枚裏でタモリさんやさんまさんが聞いているのにだいぶ調子こいて前説してたんですよね……。痛いですね……。思い出すとちょっと死にたい(笑)。