――基本を大事にする。それはいまの村雨さんの仕事にも引き継がれていますか。
村雨 引き継がれていますね。たとえば、「刈り込み」という作業があるのですが、最初のほうからやらせてもらえる、言ってみれば誰でもできる作業なんです。でも、だからこそ誰よりもきれいに仕上げる、極める、というのが親方の考え方でした。
親方の刈り込みは、他の誰にも負けないんじゃないか、というくらい綺麗だったんですが、その下で修行したからには、「刈り込み」だけは誰にも負けたくない、という気持ちはありますね。
日本の美意識と「不等辺三角形」
――庭師さんになるために、必要な勉強はあるのでしょうか。
村雨 絶対に必要な勉強、というものはないと思うんですが、多くの庭師が修行の過程で茶道や華道を取り入れています。茶道は平常心を保つためのメンタルの訓練にいい。華道は、造園に必要なバランス感覚を養うことができます。
日本の美意識は自然から由来しているものが多いので、左右対称なものよりは左右非対称なもの、三角形で言えば、不等辺三角形のようなバランスを好むんですよね。僕は茶道も華道もやっていませんが、同じくバランス感覚を養うために盆栽をやっています。
造園には仏教哲学も入ってくるので、そうした勉強もします。いま、海外でも日本庭園が増えていますが、そうした知識なしに表層だけ真似たものは、見る人が見ればわかります。
――どういったところでわかるのでしょう。
村雨 極端な例だと、庭の入口になぜか鳥居が置いてあるとか(笑)。庭を作る上で、たとえば石を配置するなら、なぜその石をそこに配置するのか……ひとつひとつ根拠が必要なんですよ。
筋トレと造園の関係
――筋トレと、造園のお仕事とでつながる部分はありますか?
村雨 あんまりないんですよね。長時間の肉体労働に耐えられる点、重いものを持ち上げられる点は助かっています。でも、繊細な作業をする上ではちょっと邪魔なところもあります(笑)。体重が重いと、木に登って作業するのも大変ですし……。
あ、でも、僕は何回も木から落ちているんですけど、大してケガをしなかったというのも、身体が丈夫なおかげかもしれない。
――想像するだけで危ない! 庭師さんは結構落ちるものなのですか?
村雨 庭師なら経験があると思います。たまたま脚を置いた枝が枯れているとか、脚立の安定が悪くてそこから落ちたりとか、不注意が原因のことが多いんですけどね。日本庭園は大きな庭石がたくさんあるので、当たりどころが悪いと大きなケガにつながってしまいます。