1ページ目から読む
5/5ページ目

 庭師のしごとではあまり役に立っていませんが(笑)、活動に注目していただくきっかけになっているので、筋トレはしていて良かったなと思います。

――もし村雨さんが「理想の庭」を作るとしたら、どのような庭になりますか。

村雨 日本庭園の代表的な要素がたっぷり詰まった、コテコテの和風庭園ですかね。枯山水や滝、亀島や鶴島を作るのもいいし、松をたくさん植えるのもいい。莫大な金額がかかってしまいますが(笑)。仕事をしているとどうしても現実的になってしまうので、ついつい自分の作りたかった庭を忘れちゃうんですが、忘れないようにしたいものです。

ADVERTISEMENT

――先ほど、東京に来て、日本庭園を手がける割合が減ったと言っていました。

村雨 テレビに出演して日本庭園の素晴らしさを語ると、「いいね」と言ってくださる方は多いんですが、実際に顧客との相談段階では「さあ、日本庭園を作ろう」とはなかなかならない。やっぱり石は片付けてほしい、灯籠は片付けてほしい……難しいですね。

日本庭園が増えない理由

――なぜ、日本庭園は人気がないのでしょう。

村雨 そもそも、庭って家についているものなので、家に合わないとダメですよね。いくら日本庭園が素敵でも、家が洋風だったら合わない。日本庭園にこだわると、人間を見ずに、服選びをしてしまう、というようなことになってしまうので……。

――たしかに! いま新築で日本家屋を建てる方なんて、ほとんどいないですものね。

村雨 そうなんですよ。それに、日本庭園に対してネガティブなイメージを持っている人も多い。管理が大変だとか。若い夫婦でいらっしゃって、夫のほうは「日本庭園もいいじゃないか」と言うんだけれども、妻のほうが「絶対嫌だ」と反対していて、よくよく聞くと妻の実家が亭主関白なおうちで、お母さんが日本庭園の草むしりで大変な思いをされていたのを見てきた経験があった、ということもありました。

 

 でも、モダンな家でも、うまく日本庭園を取り入れる方法はあります。石を使ったりして、和の庭にあるような自然要素を取り入れてみたり、日本の樹を使ってみたり。彫刻の入ったコテコテの和風の灯籠じゃなくて、ラインがなめらかな、シンプルな灯籠を取り入れる方法もありますよね。雑草にしたって、いまは防草シートを敷くとか、いろいろな対処法があるんですよ。

「日本庭園は大変じゃないよ!」ということは声を大にして言いたいです(笑)。

日本文化は「出る杭」だ

――村雨さんの、日本文化への愛を感じます。

村雨 僕から見ると、日本という国は特別なものをたくさん持っている国なんです。西洋では「出る杭こそ素晴らしい」という考え方があるので、みんな自己主張が激しい。でも、グローバルに考えたら、日本はわざわざそんなことをしなくても、飛び出ているような特徴や文化を持っている。そこが魅力なんです。

 そうした文化が、失われつつあるのではないかと僕は危惧しています。失われてしまったら、あまりにもったいない。だから、「これは素晴らしいものなんだ」ともっと多くの方が気づけたらいいなと思いますね。

僕は庭師になった

村雨 辰剛

クラーケン

2019年3月6日 発売

写真=深野未季/文藝春秋