フランスの巨匠クレール・ドゥニの新作映画『ハイ・ライフ』は、驚くほど不穏で官能的だ。サイコホラーのようなぞくぞくとする快感をもたらし、私たちを未知の領域へと連れていく。舞台は、太陽系の遥か彼方を旅する宇宙船。そこには死刑や終身刑を告げられた重犯罪者たちが乗り込み、ある恐るべき実験に参加させられている。元死刑囚たちを演じるのは、昨今、サフディ兄弟の『グッド・タイム』(2017年)など野心的な作品への出演が続いているロバート・パティンソン、リメイク版『サスペリア』(2018年)で注目のミア・ゴスら。そして監督の前作『レット・ザ・サンシャイン・イン』(2017年、日本未公開)でも主演したフランスの大女優ジュリエット・ビノシュが、危険な実験を指揮する謎の医師ディブスを演じている。ドゥニ監督にとって、これが初の英語による長編映画であり、初のSF映画でもある。
(*この記事には、映画『ハイ・ライフ』の結末に触れる内容が含まれています)
『オデッセイ』はもはやSF映画ではなくなっている
――『ハイ・ライフ』が、これまで見たことのないまったく独創的なSF映画であることに驚かされました。ここでは派手な特殊効果は使われず、物語は宇宙船という密室でのみ進行します。これは、いわゆるハリウッド製大作SF映画への挑発なのでしょうか?
クレール・ドゥニ ハリウッド映画に反するものをつくろうだなんて発想は、私にはありません。ただ単に、長年自分が温めていた、大切なストーリーに従っていっただけです。地球を離れて長い時間が経った囚人の集団がいて、最後に男が一人残される。彼は、何も持たず、希望もなく、長いこと閉ざされた人生を送ってきた。自分を孤独だと感じていますが、一方で、宇宙船のなかに子どもが一人いることを知っています。そして彼の人生が少しずつ変わっていく。突然、赤ちゃんに対して責任があると感じるようになり、愛が自分のほうへやってくるのを感じるのです。そうした映画をつくるうえで、ハリウッドの映画のことなど何一つ考えていませんでした。そもそも自分の考え方においては、すでに存在している映画に抗って映画をつくることは不可能です。