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フランスの女性監督が放つ不穏で官能的なSFホラー

クレール・ドゥニ監督インタビュー

2019/04/19

genre : エンタメ, 映画

note

急逝したフィリップ・シーモア・ホフマンを主役に想定していた

――俳優たちについてお話を聞かせてください。ロバート・パティンソンは素晴らしい演技を披露していますが、もともと監督はフィリップ・シーモア・ホフマン(2014年2月に急逝した)を主人公モンテ役に想定されていたとうかがいました。

クレール・ドゥニ フィリップ・シーモア・ホフマンと実際に会うことはありませんでしたが、彼に演じてほしかったのは確かです。彼が私の脚本を読むこともなかったし、私の方から近づこうとしたこともなかった。もし現実に会って彼が出演をOKしてくれていたとしても、この映画に出ることはできなかったでしょう。撮影が始まる前に、彼は亡くなってしまったからです。

 その後もプロデューサーたちは40歳くらいの俳優を探していたのですが、ある日、キャスティングディレクターが「ロバート・パティンソンという若い俳優があなたに会いたがっているから会ってあげて」と言ってきました。最初、彼は素晴らしい俳優だけど少し若すぎると思いました。私が考えていたモンテという人物は、人生に疲れ、希望も愛も失った人だったから。けれど何度か会ううちに、彼こそこの映画に最適な俳優であると思うようになりました。もちろんそのために映画について考えていたことの多くを変える必要がありましたが、それはすべていいように変わったと思います。

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――私が惹かれたのは、ロバート・パティンソン演じるモンテとミア・ゴス演じるボイジーという若い娘の関係です。とても強い絆で結ばれた凶暴な兄と妹のようで、監督が過去に手がけられた『ネネットとボニ』を思い浮かべてしまいました。

クレール・ドゥニ まったくそのとおりです。彼らはお互いに惹かれていて欲望もあるのに、顔を合わせると反発してしまうのです。フランス語ではこうしたふたりの関係を「犬と猫の関係」と言います。ボイジーはモンテに惹かれているけれど、モンテはもはや何も必要としていない人物で、愛の関係であれ、欲望の関係であれ、あらゆる関係から自分を切り離しておきたいと考えています。もう遅すぎる段階になって、彼はようやく、あの子のことが自分は好きだったのだと気づくのです。ただし、ネネットとボニは実の兄と妹ですから、その関係には禁忌(タブー)があります。『ハイ・ライフ』の場合は、こうしたタブーは別のところにおかれています。