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ナイジャー・モーガンとベイスターズ 新規と古参を結んだ陽気な“問題児”の記憶

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/06/02

パワーストーンは新規と古参の壁さえ壊す

 私は横浜ファンになってしばらくして、同じ横浜ファンの方々と関わりあいを避けていた時期があります。ファンの中には自己紹介時にわざわざ「大洋時代からの」という枕詞をつける古参の方もいました。ただその枕詞をつけられると、どこかマウントをとられたような居づらさを感じてしまったのは否めません。空気読んで無知を装うこともありました。そして、勝利で喜んでいるときに「この元気、夏まで持つのかなー」「今のうちに楽しんでおきな」とテンションが下がる台詞を彼らに言われたことがとどめとなり、私は古参の方々と距離を置くようになりました。

 歴史を学び、少々歴史を経験した今から考えると、その言葉は本当の暗黒時代の経験からくる、後々傷つかないようにとの親切心だったのでしょう。でもその時の私には呪いの言葉に感じて仕方がありませんでした。

 しかし、シーズン終了後の晩秋のこと。その古参のファンの方に再び会う機会がありました。他に話すべき話題のない方だったので、案の定野球の話になってしまい、恐る恐るモーガンのことを口にしました。すると気づかぬうちに自然と話が弾んでいたのです。実はその方、タオルを買うほど彼のファンになったのだそう。あの試合の事、あの始球式の事、情報7daysでのファンの映り込みの事、来シーズンへの期待……前のめりで語りあい、ともに去就を案じました。老若男女、新規でも古参でも、モーガンを前にすればすべて関係なかったのでした。その時私は、新規ファンという劣等感から、自ら勝手に心の壁を作っていたことに気づいたのです。

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本当にアバヨしてしまったけど……

 翌年、モーガンが横浜に帰ってくることはありませんでした。

 しかし、私はいまだに彼をふと思い出します。例えば去年の紅白。椎名林檎さんと宮本浩次さんが歌唱した「獣なる細道」の静と動のパフォーマンスは、いつかの長田投手とのお立ち台みたいだな。私の影響で横浜ファンになった母が空の炊飯器を見て呟きます。「釜にご飯がナイジャー・モーガン」(釜とジャーをかけている)。

「モーガンが帰ってくる」。いつかは始球式に来るだろうと思っていましたが、まさかこんなに早く実現するとは……。なにげに松坂世代でしたので、昨年引退した後藤武敏選手や、村田修一選手のように、相応に歳を重ねていると思うとワクワクというよりちょっとドキドキしてしまいますが、きっと相変わらず私たちを楽しませてくれるでしょう。

 モーガンが来る6月7日からの3連戦の相手は恐怖の西武ライオンズ。私も色々経験してしまったせいで、交流戦はカードで一つ勝てればいいかななどと弱気になっていましたが、なんだか全勝しそうな気がしてきました。モーガン再来日がきっかけになって、ここから大逆転で優勝しちゃうんじゃないかって冗談じゃなく思います。それは心が不安定な時に不確かな存在やスピリチュアルにはまるような感覚に近い、モーガンはいつだってベイスターズファンの“パワーストーン”なのです。

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