大衆そば屋でも後継者問題がよく話題になっている。身内で引き継ぐ人がいなければ閉店する店も多い。一方、身内以外に任せて存続させるという方法もある。
志村坂上の「おくちゃん」は2018年2月末で一旦閉店し、「おくちゃん」を愛してやまない方が味を引き継いで「さかうえ」と改名して再出発した。神田三崎町の「とんがらし」は2019年4月末で一旦閉店し、後継者を公募して同名店で経営が引き継がれたようだ。
大学生のときからお店でバイトしていた
そんな中、なかなか素敵な方法で店を引き継いだと話題になっている店がある。池尻大橋に今年4月にオープンした「池尻蕎麦」である。キーワードは、家族ぐるみ、サッカー監督、池尻地元愛といったところ。
早速、ゴールデンウィーク明けの水曜日の午後4時前、「池尻蕎麦」を訪ねてみた。「池尻蕎麦」は池尻大橋駅を出てすぐの246号線沿の上り方面側にある。和歌山らーめん「まっち棒」が2000年頃まであったところだ。
「池尻蕎麦」の前身は、池尻大橋にある創業60年以上の歴史を持つ製麺屋、宝録堂食品工業が経営していた「ホーチャン2号店」である。
店主の橋野幸一さん(36歳)は、「ホーチャン2号店」で大学生の時からバイトとして勤めていたそうだ。接客もフレンドリーでけっこうイケメンだ。経歴を聞くとこれがまたおもしろい。大学生の時は、お店でバイトしながら、サッカーチームのトレーナーになり、現在はお店を経営する傍ら、「三宿サッカー少年団」の監督でもある。川崎フロンターレの実力派、馬渡和彰さんが所属していたチームというから驚いた。
閉店の予定を聞いて「私にやらせてください」
橋野幸一さんは社会人の時、世田谷選抜として東京都大会で優勝した経験を持つ。根っからのサッカー兄さんだ。現在は土・日・祝日だけでなく、火・水曜は16時半から19時まで、サッカー監督として指導にはげむ。
サッカーのフォーメーション指導などが得意なのだろうか、お店の仕込みや発注、調理などはすべて、バイト時代に覚えてしまったそうだ。
今年の3月末で「ホーチャン2号店」の大将が、「ホーチャン本店」の製麺責任者になることが決まり、閉店する予定だったのだが、それを聞いた橋野さんが「私にやらせてください」と手を挙げて、店を引き継いで再開することになったというわけである。
その際、麺はそのまま宝録堂食品工業の麺を使い、さらに、「ホーチャン本店」と同じ、生麺を注文ごとに茹でる方法に変更した。