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心地よくて質が高い「おもてなし」体験をデジタルで再現

――デジタル時代って、プラットフォームを先に押さえた企業の一人勝ちというイメージがあったのですが、その視点は目から鱗です。

三浦 デジタルの世界でもいくらでもやりようはあって、たとえばサイバーエージェントは、もちろんプラットホームとして面を押さえることにも注力していますが、それ以上に進化しているのは、UX(ユーザーエクスペリエンス)です。AbemaTVってニコ動と比べて圧倒的に使いやすいでしょう。初期のYouTubeよりも動きやすかったくらいだし、あとはマッチングアプリ分野でも、Pairsに次いで、同社のタップルが猛追していますが、これもUXが非常に使いやすい。そういう顧客の体験に対するおもてなしが重要です。

 いまでこそ差はなくなりましたが、初期のAndroid携帯とiPhoneの使い心地に大きな違いがあった。あの感覚こそ本来日本人が持たなきゃいけないセンスです。最近よくUXが重要だってIT系業界の方が口々に言うようになりましたが、それは煎じ詰めれば、プロダクトに宿るおもてなしの精神なんです。お店に来たお客様に「いらっしゃいませ」って椅子を引いてあげて温かいおしぼりを出して、そのおしぼりにほのかな香りがあって、何も言わなくてもお茶が注ぎ足される――そんな心地よくて質が高いサービス体験をデジタルで再現できるかどうかが鍵になってくると思います。

©深野未季/文藝春秋

――すごく面白い視点ですね。多くの日本企業で変わらなきゃという意識はなんとなくあると思うんですが、社内や業界のさまざまな因習や構造的要因で、なかなか一歩踏み出しにくい現状もあります。

三浦 いま、変わろうとしてる会社は沢山あります。富士フイルムが化粧品の会社に変わろうとするように。いくら保守的な会社でも、5年後10年後にAIや自動運転が実用化したらビジネスが激変することくらい、みなさんわかってるわけです。でも、いまそこそこ儲かっているものがある会社ほどなかなか変えようとしない。たとえ5年後には非常に厳しいとわかっているものでも目先の儲けがあるなら、いまの意思決定者はリスクを背負わないんですね。ただこれは、意思決定をしてないんじゃなくて、「変わらないという意思決定」をしてしまっていることは自覚すべきだと思います。そこには日本ではプロ経営者が少なく、現場の叩き上げが経営陣になることが多いという問題点もあるでしょう。

 例えば大手の広告代理店では、面白いCM作ってカンヌで賞を獲ったら「頑張ったから局長にしてあげよう」、でも局長になったら「CM作ってる暇あったら部下のマネジメントしろ」という世界(笑)。日本企業にはありがちな現場の延長線上に経営があるという判断は間違ってると思います。経営はまた別のスキル。プロ経営者と現場のことがわかる叩き上げがパートナーシップを組んでこそよい意思決定を生むと思います。

――博報堂を飛び出して2017年に株式会社GOを設立したのは、そういう理由もあるのでしょうか。