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完熟した実を一つひとつ拾って作り上げる梅の味

 要因の一つは夏場の過酷な作業だろう。しかし、これこそが紀州産梅干しの美味しさを生む秘密である。

 収穫は5月末、梅酒やジュース用の青梅から始まる。6月10日頃からは完熟梅の収穫に移る。これが梅干しになる。

 梅干しは青梅を漬ける産地もあるが、紀州産は完熟を漬ける。実の柔らかさや味の膨らみが違うのはこのためだ。

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完熟した梅が落ちると、一面に敷きつめられた青いネットを転がって集まる

「熟して木から落ちる実を毎日拾って歩くのです。1農家当たり何ヘクタールも畑があるので大変な作業です」と田中課長は話す。梅畑に青いネットを敷きつめ、梅の実が斜面を転がって集まるよう工夫している農家は多い。だが、平地の畑では一つ一つ拾って歩かなければならない。

 完熟した実はすぐに腐る。このため各農家は収穫した日のうちに塩漬けする。猫の手も借りたい忙しさになるので、6月定例の町議会は、毎年5月に前倒しして行うほどだ。

広い梅畑に網を敷きつめる作業は骨が折れる

塩漬けするのは成分が種に含まれているから

 塩漬けの期間は1カ月間。梅雨明けとともに炎天下のハウスで干す。干し上がったのを「白干し」といい、塩分が20%ほどになる。その後、加工業者が塩抜きしたり、調味料で味をつけたりして販売する。これがスーパーなどの店頭に並ぶ「梅干し」だ。

 わざわざ塩抜きするなら、塩漬けしなければいいと考える人がいるかもしれないが、梅の機能性成分は主に種に含まれていて、塩漬けするからこそ染み出して果肉に移る。

「だから塩分を抜くと、多少なりとも成分は抜けてしまうんです」と、梅干し加工販売の「ウメタ」直販部、岡崎健志係長(48)は話す。同社は1964年に味の素と梅の調味料を共同開発した「調味梅干し」の先駆者だ。

「昨今の売れ筋は甘くて酸っぱくない梅干しです。各社ともハチミツベースですが、どんな味付けにするか、塩分濃度をどれくらいにするかは各社各様で、当社も1000種類を超える商品があります」と言う。