なぜ北海道出身の19歳が新規農家になったのか
5月1日、高校を卒業したばかりの新規就農者が現れた。北海道出身の小林裕生(ひろき)さん(19)だ。
小林さんは「梅干しが大嫌いでした。皮が硬いし、後味も残るので」と話す。ところが1年ほど前、みなべ町産の梅干しに衝撃を受けた。
「薄い皮を噛むと、柔らかい果肉がゼリーみたいに出てきて、こんなに美味しいのかと感動しました」。農業関連の集まりで、みなべ町出身の北海道大学大学院生、山本将志郎さん(25)と知り合い、山本さんが漬けた無添加の梅干しを食べたのだ。梅干しが大好きになった。
2人はこの2月から2カ月かけて、ピンク色に塗った軽トラックで日本一周し、梅干しを販売した。各地で出会った人の中には、小林さんと同じように梅干しの美味しさに目覚める若者もいた。小林さんは梅農家になりたいと考えるようになった。
母は最初、「パニック」に
その思いを北海道の両親に伝えたのは3月1日に高校の卒業式が終わってからだ。既に道内の大学に進学が決まっていたので、「母はパニックになりました。でも、決めたのなら自分の好きな道で頑張りなさいと最後は理解してくれました」と小林さんは語る。
就農したのは山本さんの兄、秀平さん(27)の農園だ。秀平さんは33歳までの梅農家15人で作る「みなべ梅郷クラブ」の会長を務める。
「こんな形の就農者は初めてです。町内にはない発想を持ち込んでくれると期待しているのですが、実は僕自身が一番刺激を受けています」と秀平さんは目をキラキラさせる。
「令和」になったからといって、観光客が増えるわけでもないみなべ町。だが、梅をめぐる時代の変動は少しずつ始まっている。
※岡崎健志さんの「崎」はつくりの「大」が「立」です。