精神的なストレスというものは、人間の体のどこにでも自由にダメージを及ぼすことができるらしい。頭痛や肩こり、胃痛や下痢などはよく知られているが、他にも意外なところで症状を引き起こすことがある。
今回のテーマは「陰部痛」。
前立腺という、男性にだけある臓器に起きる慢性的な炎症によるものと考えられているこの症状、その背景にストレスが見え隠れすることが多いのです。
長時間座っていると感じる、重く鈍い陰部の痛み
Kさん(48)は半年ほど前、ある症状に悩んでいた。
陰部の奥のほうから湧き出てくる弱い痛み――。
場所が場所だけに、中々人には相談しにくい問題だ。はっきりとした強い痛みではないけれど、でも正常ではない、不快な症状があることは確かだ。特に長時間座っていると、股間の奥のほうに重く鈍い痛みを感じる。
同様の痛みは「排尿時」にも感じることがある。排尿中や終わった後も、しばらくは鈍痛が持続する。我慢しようと思えば我慢できなくもない違和感だが、不快であり不愉快だ。
症状が出る数カ月前から、Kさんはストレスを抱えていた。会社では人間関係に悩み、家に帰れば妻との不仲。たった一人の娘は妻側に付き、家での会話はほぼなかった。どこにも心休まる場所がない彼は、心身ともに疲れ果てていた。食欲もなく体重は激減し、アルコールの量だけが増えていた。
そんな時に襲ってきたこの不快な症状に、彼はイライラを募らせた。
数週間悩んだ末に、思い切って泌尿器科の門を叩いた。問診と血液検査、そして尿検査を受けたが、特に異常は見当たらない。MRI(磁気共鳴画像法)による画像診断を受けたところ、「やや肥大気味」という結果が得られた。しかしそれは年相応の肥大であって、鈍痛とは直接関係は無さそうだ。前立腺がんの腫瘍マーカーである「PSA」というタンパクの値も正常だった。
泌尿器科医は言った。
「しばらく薬を試してみましょう。とりあえずの診断名は『慢性前立腺炎』です」