法律や経済を学ぶには、じつは数学の能力が必須だ
中西 そもそも私は、まず理系・文系という境をやめようと言っています。法律や経済でも、最低限の数学はできないと。
冨山 いちおう私、法律家なんですが、法律って実は数学的なんです。ある要件事実をあてはめたら、一つの結論に行く。これは完全にAIの世界なんです。だから、裁判官が真っ先にいらなくなるという説もあります。要するにAIなことをやっているわけですから。
経済学はもう理数系の学問ですよね。経営学も、簿記会計とかファイナンスとか、基礎言語は数字です。だから、ITも含めて、実はどの分野に行くにしても、統計学も含めた最低限のいくつかの言語能力って、やや理数系的ですよね。
そこはちゃんとマスターしておいてくれないとあとで困る。すごく頭がいいのに、その言語がないために行き詰まってしまうようなことになりかねない。
中西 20、30年前にアメリカの初等教育で悩んだことを、今の日本の大学教育で悩んでいるんじゃないのかな。
冨山 かもしれないですね、たしかに。
中西 それは、いい算数の先生がいない、ということです。やっぱり社会が、「あ、これ教えなくていいや」と思った瞬間から、先生もトレーニングされなくなる。そうすると、改めてやるべきだと言われたって、さてどうやって教えたらいいんだ、ということになる。自分で一所懸命、勉強したことのない人が教えられないよね。
なぜアメリカでは「産学連携」と「基礎研究力」が両立するのか?
冨山 私がビジネススクールに行っていたのは、30年前です。スタンフォードはわりに理系的、ハイテクの学校だったこともありますが、ファイナンスとか統計学とかコンピュータとか、理数系科目が多かった。
中西 マネジメントサイエンスはみんなそうでしょう。
冨山 いっぱい数学が出てくるんですよ。あと、ちょっとした微分なんかも出てくる。財務理論なんて、ちょっとした高等数学を使っています。ただ、私は文系でしたけど、数学はできたんです。東大の文系は数学ができると、かなり楽に入れますから。
アメリカ人には驚かれました。どうして法学部なのに数学ができるんだ、と。当時のアメリカの学生は、算数できなかったですから。
中西 それが変わったんです。大学のコースの取り方自体も、推奨もずいぶん変わっていて、先にエンジニアリングを出てからMBAを取るとか、クロスオーバーの人が多くなってきて、それがまた就職上、有利になる。
アメリカの場合はもろに初任給に効きますからね。どこそこの大学のどのマスターを持っている、となったら、それだけで年収ベースで2、3割は違いますから。
だから、大学院などのグラデュエート・スクールって、結婚してから入る人も多くて、妻にお尻を叩かれて、マスター取ろうとしてる、なんて男性もいますよね。
冨山 逆もありますね。夫が働いて、妻がマスターを目指す。博士号を持っている上に、MBAを目指したり。
中西 門戸が開かれているので、何度学んでも、また行ける。そのほうがグラデュエート・スクールもウエルカムです。学費が高くても、入ってきますからね。
冨山 そして、出ればまた稼げる。
中西 投資と回収のサイクルがあるんですね。
冨山 そして大金持ちになったら、莫大な寄付をしてくれる。それが、スタンフォード大学なんかでノーベル賞が出てくる本当の理由です。やっぱり基礎研究資金が潤沢。それは、卒業生のコミュニティから入ってくるからです。私立なので、運営交付金はもらっていませんので。
中西 学費は高いけどね。
冨山 高いんですが、所得の低い人はほとんど奨学金で行けるんです。普通に行っちゃうと高いんですけど。
でも、経済的にちゃんと投資と回収が成り立つから維持されている。奨学基金にも大学発ベンチャーで大成功した卒業生などから莫大な金が入っているのです。産学連携と基礎研究力は二律背反ではない。むしろ相互依存的なエコシステムをこの30年くらいで作り上げたわけです。
中西 アメリカ流が全面的にいいわけではないけれど、今の日本のボトルネックはかなり明確に見えているんですよね。
それに対して、大学側がどう答えるのかというと、いやいや一斉採用で期限決めてください、と。それはどうなんでしょう。今後、協議会を組織して議論しますけどね。
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