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「いざ来い、ニミッツ、マッカーサー」で歓迎?

 最後に、例外的な歓迎ソングを取り上げておこう。アジア太平洋戦争の末期、「比島決戦の歌」という軍歌が作られた。読売新聞の依頼で西条八十が書いたものだが、ある陸軍将校が生ぬるいとして、つぎのような歌詞を付け加えたとされる。

「いざ来い、ニミッツ、マッカーサー。出てくりゃ地獄へ逆落とし」。

西条八十氏 ©文藝春秋

 このせいで、終戦後、西条は戦犯指名されるのではないかと恐れ、収監に備えて急いで歯の治療まで行なった。結果的になにもなかったのだが、同じころ、東京ではこんな事態になっていた。

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 とある映画の撮影所に、進駐軍の部隊がそろって見学にやってきた。そこで日本側はお愛想で「比島決戦の歌」のレコードをかけて聞かせた。すると、日本語のわからない将校連は、「ニミッツ」「マッカーサー」の名前だけに反応して、これを歓迎の歌と勘違いし、大喝采を送ったという。

 以上は西条自身が自伝で書いていることなのだが、じつは「比島決戦の歌」のレコードは今日まで見つかっていない。資材不足で作られなかったともいわれる。とすると、これは作り話なのだろうか。それとも、1945年公開の映画で使われたことがあったので、その映像を見せたのだろうか。事実だとすれば、思わぬ「歓迎ソング」活用の一幕であった。

 いずれにせよ、現代日本も、あそこまでトランプに尽くしているのだから、そのうち度肝を抜く「音楽外交」をやってくれるのではないか。少しばかり楽しみに待っているところである。

茂原カントリークラブでのトランプ大統領と安倍首相 ©文藝春秋

【参考文献】
・北原白秋『白秋全集36』岩波書店、1987年。
・倉田喜弘『「はやり歌」の考古学』文春新書、2001年。
・西条八十『わが歌と愛の記』白凰社、1977年。
・谷村政次郎『行進曲「軍艦」百年の航跡』大村書店、2000年。
・寺崎英成、マリコ・テラサキ・ミラー(編著)『昭和天皇独白録』文春文庫、1995年。