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多様性を取り戻すアメリカ

 アメリカの人種民族別の人口比率は以下だ。

白人:61%
ヒスパニック:17%
黒人:13%
アジア系:5%

 黒人は13%だが、ヒスパニックやアジア系よりも移民の率が低く、有権者の数が多い。多数が奴隷の末裔という共通の歴史を持ち、現在の生活環境や、政治に要求するものも似通っている。支持政党は圧倒的に民主党だ。特に黒人女性の政治的視点は驚くほど合致しており、前回の大統領選では94%がヒラリーに投票している。黒人差別、女性差別を徹底して体現するトランプには一切投票しなかったのだ。

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黒人有権者へのアピール

 こうした背景があり、今回の大統領選では対黒人有権者策を練る候補者が少なからずいる。もっとも顕著な例は、黒人奴隷制度への補償問題だ。奴隷制の影響と、現在に続く黒人への差別による損害を補償しようという案で、アフリカ系のブッカー上院議員、ハリス上院議員のほか、メキシコ系のカストロ前住宅都市開発長官も強く主張している。当初は補償に反対していたサンダース上院議員も黒人票の重要さから賛成に転じた。また、幾人かの候補者は「個々人への現金補償ではなく、黒人地域への貢献策」など、中庸策を提唱している。

バーニー・サンダース ©getty

 奴隷制補償の推進派は、第二次世界大戦中に収容所に入れられた日系人への補償が1988年に為されていることも踏まえ、長年にわたって実現を望んできた。しかし急進的な法案と捉えられがちなこと、対象人口の多さから莫大な予算が必要なことから実現に至っていない。その奴隷制補償を、今は大統領候補者たちが語っている。今回の大統領選で黒人有権者へのアピールがいかに喫緊の問題となっているかがうかがえる。

 前回の大統領選でヒラリーと熱戦を繰り広げながら敗退したサンダースも、敗因のひとつは黒人票が取れなかったことだ。その反省から今回の出馬表明イベントは黒人人口の少ない地元ヴァーモント州ではなく、黒人人口が極めて多い、生まれ故郷のニューヨーク市ブルックリンでおこなっている。さらにネットを基盤に活躍する若い黒人の人権活動家などを公認の支援者としてリストアップしている。

 アメリカはキリスト教色が非常に濃い国であり、中絶と同性愛へのアンチも根強い中、同性婚者のブーティジェッジが支持率を高めたのは驚きだった。

中絶に反対するデモ参加者ら ©iStock.com

 知的で冷静なキャラクターであることから「オバマの再来」とも言われるブーティジェッジだが、黒人層からの支持率は低い上、3年前にアンチ黒人とも解釈される発言「すべての命が大切だ(*)」をしていたことが報じられた。ブーティジェッジはこの発言について黒人人権団体でのスピーチの中で謝罪し、後日、黒人とヒスパニックの教育問題を語った。ゲイ、同性婚者としてマイノリティのブーティジェッジも人種においては白人であり、マジョリティ側なのである。ここにアメリカの複雑さがある。

*……黒人への警察暴力にアンチを唱えるフレーズ「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命も大切だ)」に反感を持つ層から生まれたフレーズ「オール・ライヴズ・マター(すべての命が大切だ)」