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ジャーナリストが思わず「白人男性候補は不利では?」と

 今年の1月から2月にかけて、前回の大統領選でも立候補を期待されたものの、ヒラリー・クリントンの援護射撃に回り、舌鋒鋭くトランプを批判したエリザベス・ウォーレン(上院議員)をはじめとする8人の候補者が出馬を表明。いずれも何らかのマイノリティであったため、CNNのジャーナリストは思わず、「今回の大統領選、白人男性候補は不利では?」と口にした。アメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンの就任から230年目にして、初めて漏れた言葉のはずだ。

 政治における人種問題の揺り戻しがオバマ政権以降、続いている。2008年、当初は無名のイリノイ州の上院議員だったオバマが米国初の黒人大統領に選ばれ、この国の歴史は引っくり返った。公民権運動家たちが黒人の投票権を求めてアラバマ州セルマで行進をおこなったのは1965年。それからわずか43年後に黒人の大統領が誕生したのだ。

バラク・オバマ ©getty

 1960年代以前の激しい人種差別の時代を知る黒人の年配者たちは、「生きているうちに黒人の大統領をみるとは夢にも思わなかった」と、涙を流したが、米国初の黒人大統領の誕生を「信じられなかった」のは、人種差別主義者側も同様だった。

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 いったんは減っていたヘイト団体の数がオバマ大統領の当選後に増えた。大統領のみならず、ファーストレディのミシェルをもサルになぞらえた加工画像がネット上に出回った。黒人をサルと呼ぶのは黒人差別の常套手段だ。公表はされていないが、オバマへの脅迫は選挙戦中からあった。そのため、オバマには早い段階から護衛が付けられていた。ミシェルが夫の出馬を諸手を挙げて歓迎しなかった理由の一つは最悪の事態、暗殺を憂えてのことだった。

オバマ政権時代からの揺り戻しの数々

 紆余曲折を経ながらもオバマ大統領が2期8年を務めたのち、2016年にトランプが当選した。そこには大手メディアも読み切れなかった経済の複雑な事情があったが、人種問題も確実に関与していた。オバマ大統領の政策や人格とは一切関係なく、黒人という属性を持つ者を自国の大統領として絶対に認められない者たちが存在するのである。

 8年間、不満を募らせていた人種差別主義者、移民排斥主義者、加えてミソジニスト(女性嫌悪者)たちとトランプは呼応した。トランプのマイノリティへの暴言の数々は、報じられているとおりである。

 トランプは当選直後から「イスラム7カ国からの入国禁止令」、続いて「メキシコとの国境に壁」「難民申請の親子を引き離す」といった政策を打ち出している。オバマ政権によるDACA(子供の時期に自分の意思とは関係なしにビザなし移民として米国に移住し、成長した若者たち=通称ドリーマーの救済支援法)の廃止も目論んだ。