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「人生100年時代」に見るアリとキリギリス問題

文字通り命を削って子孫を残そうと頑張っておるわけです

2019/05/30
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文字通り命を削って子孫を残そうと頑張っておるわけです

 その事実を、天下の朝日新聞大先生が「人生100年時代の蓄えは? 年代別心構え、国が指針案」とかいうタイトルで煽ったために、ネットでタイトルしか読まない層が「なんだと、国は俺たちの老後を放り投げて個別に蓄財しろというのか、けしからん」と怒り始めて大炎上したわけですね。まあ、老後が不安だし貯金もままならない現状で現役世代が怒る気持ちは分かる。

 でも、他の情報とこの問題をオーバーラップすると、いろんなことが見えてくるわけですよ。例えば「働き方改革」でも出ているような、副業ありの夫婦共働き、できた子どもは0歳から保育施設に無償で預けて……という人生設計を考えたとき、実のところ老後が満足に暮らせるような蓄財ができる家庭って意外と割合として少ないんじゃないかと思うんですよね。

 総務省の皆さんが超多忙な業務の合間を縫って作成していただいた貯蓄に関する統計を見ますと、勤労世帯では貯蓄が300万に満たない世帯が25%を超えていることが分かります。老後とか心配してるレベルじゃねーぞ。しかも、ここには多くの若い日本人夫婦の世帯が含まれ、ここから子どもの教育費が捻出され、文字通り命を削って子孫を残そうと頑張っておるわけです。偉い人はそこが分からんのです。

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総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-貯蓄の状況」(2018年)より

転がり落ちるように駄目になっていっている日本社会と年金問題

 アベちゃんもトランプさんとゴルフしながら人生100年時代について沈思黙考していると思うのですが、人口の減少がダイレクトに効いて「日本人の老後」がおおむね貧しく、暗く陰鬱なものになっていることは理解できると思うんですよ。

 だからこそ、朝日新聞の多少的を外した煽りにネットを見る若者が不安を投影して「金融庁ふざけるな」と事実に対して怒っている、という図式があるんじゃないかと思うんですよね。でも、金融庁様は事実をお語りになられているわけでして、ほんとこれどうするんだろうね、ってのはきちんと論じられるべきだと思うのです。

 つまりは、これが令和時代の真の姿だよということでして、転がり落ちるように駄目になっていっている日本社会と、そこで暮らす私たちの年金は少子高齢化の渦の中で制度ごと駄目になっていく私たちの老後がオーバーラップしていくのです。ああ、年金負け組世代。逆に言えば、勝ち逃げ高齢者のために社会福祉をこれだけ厚くしておいて、これからの富を築き社会を良くしていくはずの若い世代がなぜこんなに苦労しなければならないのか、というど真ん中の断絶が高齢者と現役世代&子どもの世代に横たわっておるわけです。

©iStock.com

 いわば、童話でアリの一家にキリギリスが1匹やってくるぐらいならどうにかしてやれるかもしれないけど、キリギリスで満員の大型バスがアリの一家の玄関前に乗りつけてきたぐらいの勢いなんですよね。

 でも、貰える年金が少なくて本当にどうしようないなあ! キリギリスさんは! となると、年金よりもたくさんお金がもらえる生活保護という仕組みもあって「なんだよ! 年金制度維持する意味がどこにあるんだよ!」という疑問が百出するわけなんですけど、童話のどこにも「アリもキリギリスも老後はカネがなくなったので生活保護世帯となりましたとさ」とは書いてないわけなんですねえ。

 そして何より大事なのは、キリギリスほど遊んで暮らしたわけでもないのに、老後の資金を貯める仕事のなかった人は、本当にその人だけの責任なんだろうかという命題に突き当たるわけですが、残念なことに金融庁の報告書には「お前らこういうことをしたら貯蓄できますよ」とは書いていません。

 大事なことほど、世の中誰も教えてくれないのが摂理なのよね。

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