文春オンライン

「人生100年時代」に見るアリとキリギリス問題

文字通り命を削って子孫を残そうと頑張っておるわけです

2019/05/30
note

 童話では、冬に家族に囲まれて暖かい暮らしをしているアリの一家に、夏働かず享楽的に暮らしていたキリギリスが喰いっぱぐれて助けを求めるという結末を迎えていました。

 もちろん、それは童話の中であって、実際には「ちゃんと働いているのに貯蓄ができないアリ」とか「若いころは貯蓄のあるアリだったけど、途中でスルガ銀行に騙されて喰えなくなったアリ」とか「結婚できなくて家族もいない微妙な境遇のアリ」とか千差万別なんですよね。アリの人生の多様性を理解しない童話の世界に断固抗議します。

欠かさず保険料を支払っていた人でも「お前にはあげねえよバーカ」

 で、先日金融庁が面白報告書案を出して炎上していました。

ADVERTISEMENT

金融審議会市場ワーキング・グループ 「高齢社会における資産形成・管理」 報告書(案)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20190522/01.pdf

 中身をよく読むと、間違ったことは何一つ書いてないんですよね。

 この当たり前の中身を、我らがクォリティペーパー朝日新聞様が微妙に煽るようなタイトルを付けたお陰で「人生100年時代を生き抜く蓄えがない奴は死ねというのか!! ふざけんな国! いい加減にしろ金融庁! アベ政治を許さない!!」という誤読野郎がたくさんでてしまって無事炎上という流れであります。

 もちろん、炎上させてしまった朝日新聞も別に悪いわけじゃないんですけどね、なんかこう、空気が乾燥しているんですかね。

人生100年時代の蓄えは? 年代別心構え、国が指針案:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASM5Q53LGM5QULFA026.html

 人生100年あるかもしれない時代に、65歳で仕事をやめ、残りの35年間を公的年金「だけ」で暮らしていては、生活レベルを維持するのはむつかしいのは当たり前のことですね。

©iStock.com

ちくしょう、お前ら長生きしやがって

 2019年現在では、一般的な「リタイア」を「老後」と見た場合に、いま65歳の男性で約18年、同じくいま65歳の女性で約24年の期間が「だいたい2人に1人」あります。これは概ね1954年生まれの人たちの話で、2010年生まれぐらいになると本当に平均寿命が100歳を超えるんじゃないかという話も出てきています。ちくしょう、お前ら長生きしやがって。でも、いま65歳の人と、いま30歳から45歳ぐらいまでの人とでは、おそらくもらえる公的年金の金額は随分違うかもしれません。

 納めた保険料よりも、貰える年金が少なくなってしまう点も含めて、社会保障においてはまだ若い人がたくさんいた時代に豊かな老後を送れる勝ち組と、子どもの数が減って老人ばかりになる残念な負け組とができてしまいます。いわゆるこの「年金負け組世代」は、人口減少局面で社会に余裕がなくなる人口オーナスの影響もあり、計算にもよりますが、現在55歳以下の日本人全員が該当してしまう怖れはあります。