まさに今が旬、である。巨人の山口俊投手が絶好調だ(ちなみに山口はベイスターズ時代に「いまがしゅん!」という個人ブログを運営していた。あまり更新頻度は高くなく、スタミナが切れたのか7年前に更新終了)。6月29日現在、14試合に登板して8勝2敗、リーグトップの防御率1.99。3、4月の月間MVPを獲得すると、5月はややもたついたものの、交流戦では2勝0敗、防御率1.29の大活躍。ライバルカープの交流戦最下位という“敵失”に乗じた感はあるが、絶対エースの菅野が今一つピリッとしない中、巨人のリーグ首位再浮上の立役者といっていいだろう。リーグ再開初戦でもしっかり勝ち星を挙げ、いつの間にかV奪回のキーマンになっている。

崖っぷち状態からのV字回復

 2017年シーズンにFAで横浜からやってきた右腕は(身から出た錆とはいえ)逆風にさらされてきた。移籍前年度からの右肩痛を引きずり、いきなり開幕3軍スタートに甘んじる。夏場にようやく復帰を果たしたものの、防御率6点台と精彩を欠いているうちに、とんでもない事件を引き起こしてしまう。自らの誕生日パーティーで泥酔。病院の扉を壊したり、警備員に暴行を加えたりした、という疑いがもたれたのだ。

 近年、ユニホーム組の不祥事には慣れはじめていたG党をも震撼させる暴挙で、シーズン終了まで3カ月以上の出場停止に加え、罰金、減俸合わせて1億円ともいわれる金銭面でのペナルティも負った。もし外国人選手だったら即解雇間違いなしの所業で、山口は自作自演の崖っぷち状態に陥る。だが、ここから文字通り右腕一本で復権の道を切り開くのだ。

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 謹慎明けの2018年にしれっと開幕ローテ入りを果たすと、7月には四球1つだけの準完全試合となるノーヒットノーランを達成。自身初の規定投球回を投げたほか、ブルペンが壊滅状態に陥ったシーズン終盤には抑えも務めるなど、まさかのV字回復で罪滅ぼしモードに入る。プロ野球ファンというのは現金なものである。ひいきチームを勝利に導いてくれるなら、過去の多少のトラブルには目をつぶる。そもそも熱烈に望まれていたわけでもないのに、いざ入団してみたらさほど働かないうちに不祥事と、危うく史上最低のFA選手になるところだった山口も、その活躍によっていまやファンに認められる存在になりつつあると言っていいだろう。

巨人のリーグ首位再浮上の立役者、山口俊 ©時事通信社

真っ向勝負型から驚きの変貌

 かつては150キロを優に超える豪速球とスライダー、フォークのシンプルな組み立てで、いわゆる真っ向勝負型の投手だった。だが、今のピッチングはそのころとはまるで趣がちがう。力感あふれるオーバースローからモデルチェンジし、サイドハンドに近いスリークォーターから適度に力を抜いたフォームでボールを投げ込んでいく。2種類のスライダーを投げ分け、時には緩いカーブも混ぜていく。その一方で、平均球速はリーグの先発陣トップクラスで、空振りも取れる上にカウントも稼げるフォークも健在だ。

 速球派がベテランになってから技巧派に転身した、ということではなく、馬力を保ったまま引き出しが増えた。投手としてかなりハイブリッドな、完成度の高いタイプに変貌しているのだ。言うなれば押し相撲一本やりだった力士がその圧力をキープしたまま、四つ相撲にも対応できるようになった、というような感じだろうか。その変貌ぶりには少なからず驚きを感じた。かつて先発転向を首脳陣から打診された山口がこう言っていたのを覚えているからだ。

「自分は不器用で球種も少ないし、リリーフ向きだと思う。リリーフでメジャーに行きたいと思っています」

 実際に球団にポスティングシステムの利用を直訴したこともあったが、これはあまりにも時期尚早だったためにかなわなかった。そもそも、DeNA時代の山口はお世辞にもストイックな選手とは言えなかった。酒量もチームトップクラスな上、父が元幕内谷嵐というDNAも関連しているのか、太りやすい体質。オフシーズンなど「もう普通にデブなのでは?」という体型で公の場に出てくることも多かった。よく「才能だけでやっている」と言われる選手がいるが、山口はまさに典型的なタイプだったと思う。一昨年の飲酒暴行トラブルに関しても、正直に言ってすごく意外だ、というわけではなかった。