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『なつぞら』岡田将生“暴走”のワケ 伝説の劇場「新宿ムーランルージュ」とは

2019/06/01

 現在放送中のNHKの連続テレビ小説『なつぞら』では、広瀬すず演じるヒロイン・奥原なつが高校卒業後、アニメーション映画制作を夢見て北海道から上京し、今週から舞台は東京・新宿界隈に移った。時は1956(昭和31)年。日本が戦後の復興から高度成長期に入ろうとしていた時期だ。

中村屋、紀伊国屋書店……新宿は文化の発信地だった

 なつは同郷の友人で、菓子づくりの修業に出された小畑雪次郎(演:山田裕貴)とともに上京すると、彼が見習いに入った新宿「川村屋」で当面生活を世話してもらうことになった。川村屋のモデルは、新宿に実在するベーカリー兼レストランである中村屋である。

『なつぞら』でヒロイン・奥原なつを演じる広瀬すず ©文藝春秋

 中村屋はもともとは1901(明治34)年に、相馬愛蔵・黒光(こっこう)夫妻によって東京・本郷に創業し、8年後に新宿の現在地に本店を移した。昭和初期の1927(昭和2)年には喫茶部(レストラン)が開設され、劇中にも出てきた純印度式カリーなどを出して名物となる。同じ年、中村屋と新宿通りを挟んで紀伊國屋書店が開店する。『なつぞら』に登場する書店「角筈屋」の社長・茂木一貞(演:リリー・フランキー)は、紀伊國屋書店の創業者・田辺茂一をモデルにしている。相馬夫妻も田辺も終生、芸術家や文学者への支援を惜しまず、中村屋と紀伊國屋書店は新宿における文化の発信地となった。なお、『なつぞら』には、川村屋のオーナーとして前島光子(演:比嘉愛未)という女性が出てくるが、現実の中村屋では、1956年当時、相馬夫妻の長男・安雄が2代目社長を務めていた。

90年以上の歴史を持つ新宿中村屋の純印度式カリー ©文藝春秋

岡田将生演じる咲太郎が借金をした理由

『なつぞら』では、上京したなつが、終戦直後より離れ離れになっていた兄・咲太郎(演:岡田将生)と再会を果たす。咲太郎はこれより前、新宿ムーランルージュを復活させるべく奔走するなか、他人にカネをだまし取られ、川村屋の光子に多額の借金をしていた。彼がそんな行動をとったのは、ムーランルージュの元踊り子で、現在は新宿の路地裏でおでん屋を営む岸川亜矢美(演:山口智子)のためだった。亜矢美は、戦争で両親を亡くした咲太郎の母親代わりとなって面倒を見てくれた彼の恩人である。

 新宿ムーランルージュは、新宿に実在した軽演劇の劇場で、正式な名称を「ムーランルージュ新宿座」といった。1931年に開設されたムーランは戦災による焼失を経て、戦後、かつての関係者が再結集して復活したが、1951年5月31日に閉鎖された。

『なつぞら』でなつの兄・咲太郎を演じる岡田将生 ©getty