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東京大学医学部OBが教授として派遣される「植民地」時代は終わった

「白い巨塔」が描いた日本の医学界の変化とは

2019/06/11
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「脱東大植民地化」の一方、「自校出身」の教授が増加

 ところが、近年、そのポストが減少しています。私も著書『医学部』(文春新書)を執筆するにあたり、80年代当時に東大医学部OBの教授が10人以上いた大学19校に絞り、その数が現在どれくらいになっているのかを、2017年9月~10月にかけて調べてみました。

©文藝春秋

 その結果、どの大学も東大OBの教授の数が減っていました。東大自校を除くともっとも多かったのが帝京大学で、6割近くが東大OBです。しかし、他に5割を超えている大学はありませんでした。19校全体の教授(755人)の中で、東大OBの教授(383人)は50%を超えていたのに、それが19%(961人中183人)にまで減っていたのです。

 一方で増えたのが、「自校出身」の教授です。たとえば、日本大学は80年代当時、東大OB教授が45%もいたのがたった1人(2%)になり、一方で自校出身者が6割近くに増えました。また、東京医科歯科大学も東大OBが60%から11%に減った一方で自校出身者が53%に、筑波大学も東大OBが50%から8%に減った一方で自校出身者が51%にまで増えました。

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東京大学 ©文藝春秋

東大医学部OBでなくとも、優秀な人材が育った

 このように、どの大学医学部も「脱東大植民地化」が進んでいるのです。現実の東大医学部OBの中にも、船尾教授と同じように危機感を抱いている人が少なくありません。なぜ、こうなったのでしょうか。

 一番の理由は、東大医学部に頼らなくても自校から教授を出せるほど、各大学医学部が実力をつけてきたことだと思います。とくに70年代は、医療格差を是正するために推進された田中角栄内閣の「一県一医大」構想によって、新たな医学部や医大が多数設立されたばかりでした。当然、新設の大学は東大、京大、阪大など有力大学の医学部から教授を招聘する他ありません。自治医大(設立1972年)や筑波大(同73年)の東大OB比率が高いのは、そのような背景によるものと考えられます。

 しかし、それから40年以上が経ち、設立当初に新設医学部や新設医大に入学したOBもベテラン医師の域に入っています。そうした中には医学界で業績を上げて教授になった人も少なくありません。それに医学部受験ブームが続いたことで、国公立大学だけでなく、かつて「金があれば入れる」と揶揄された新設私大医学部も、今は受験偏差値が格段に上がりました。東大医学部OBでなくても、自校OBから優秀な人を教授に選べるようになったのです。