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天安門30周年――「終わりの始まり」になるはずだった

 中国は2010年前後から香港への支配をより強めるようになった。いまや、香港は経済面ですっかり中国に従属しているうえ、中国大陸からは香港の人口比率を変えるレベルで移民(新移民)や渡航者が殺到。対して2014年の雨傘運動以降は、反中國・反香港政府の志向が強い活動家の逮捕や拘束もしばしば見られるようになり、学生運動も低調になっていた。

 もはや、返還後50年間は体制を変えないことを定めた香港基本法の体制変更期限が前倒しされることすら、徐々に現実味を帯びてきていた。今回の逃亡犯条例の改正は、仮に成立していれば、政治・経済のみならず香港の司法すらも中国に従属することになる。決定的な「終わりの始まり」になるはずだった。

 正直なところ、私は今回の香港側の抵抗は「大坂夏の陣」に近いと考えていた。外堀を完全に埋められ、外部からの援軍も十分に得られず、圧倒的な戦力差のもとですでに勝てないことは自明の状態。その上で「最期にどう散るか」が問われる、悲壮感あふれる戦いになると思っていたのである。香港市民の抗議運動の規模がこれほど大きくなり、強烈な形で民意が示されることで、運動が一定の結果を出してしまうのはまったくの予想外だった。

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 逃亡犯条例の改正が、ノンポリや親中派の人間ですら生命・身体の安全を危うくしかねない(=香港市民が中国大陸並みの人権状況に置かれる)という認識を持たれたうえ、12日におこなわれた抗議行動に対して、今後の香港の人権状況を想像させるに足る「中国的」な荒っぽい弾圧がなされたことで、未曾有の数の市民が反対に立ち上がったのだろう。詳しい考察は後に譲るとしても、香港史上で最大規模(中国全土で見ても天安門事件前のデモに次ぐ規模)のデモが、天安門30周年の年に発生したことは、実に興味深い現象と言うしかない。

 香港政府はまだ条例改正審議の完全撤回を認めておらず、これまでの衝突で出た逮捕者の処遇も不透明だ。香港での抗議運動は継続される模様である。今後の展開にも目が離せない。