有効求人倍率も人手不足でかつてないほど高まる

 高齢社会白書を見ても、男性は60歳から64歳までは正規雇用がまだ約半分残っているのに対し、65歳以上は非正規雇用が70.5%になりました。順調に高齢者が現役世代を卒業していることを意味します。それを見て、朝日新聞がアベちゃんの政権になって「非正社員が306万人増えた!」と言っても、その半分以上の160万人ぐらいは65歳以上の高齢者が定年退職後に嘱託再雇用されたり地域の不定期雇用に吸収されて、駅前の放置自転車を回収したり配送などの軽作業をやったりして楽しく現役やっとるわけですよ。

 残りの非正社員の部分も、もちろんワープアや正社員になりたくてもなれない若者の割合は少なくないでしょうが、そもそものところで失業率は過去最低水準となり、有効求人倍率も人手不足でかつてないほど高まっていて、つまりは「仕事を選ばなければ仕事が得られる状態」です。非正社員が増えたのではなく、それまでは失業状態だった人でも仕事が得られる社会状況にはなっている、とむしろアベノミクスを絶賛するべき内容になっちゃっているんですよね。

1周回ってアベノミクス絶賛? ©文藝春秋

 人口構成の問題はあるけれど、少子高齢化になって人手不足でまあまあ景気もいいからほぼ完全雇用は達成されている、あとは働き方の「質」の問題をアベちゃんはもっと取り組め、というのが本来報道する側の使命じゃないかと思うんですよ。

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安い給料しか払えない企業を温存している

 完全雇用の状態なのに、東京の最低賃金が時給985円で、この時給で週5日8時間フルタイムで働いても額面の月給16万円に届きません。地方都市ではより安い月給しか出ないことになりますが、いまではこんな時給では働き手は来ませんから、各社各々お財布の中身を見ながら賃金を引き上げる方向に本来は考えなければなりません。

 しかしながら、実際には最低賃金で雇用する前提で事業を経営しなければ利益が出ないという低利益率の業態がたくさんあり、社員の給料を上げてしまっては潰れてしまう会社が続出します。そういう会社は本来競争に負けて倒産して市場から退出してもらうべきところなのですが、なぜか廃業しないような圧力が働くため、地方経済においてはこれらの不採算企業に対する助成金が出てしまいます。

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 アベノミクスがおかしいところは、経済原理だトリクルダウンだと言いながら、安い給料しか払えない企業を温存して社会全体の生産性が低くなるようわざと誘導しているんじゃないのかと思うほど非効率が改められない点です。給料が低く抑えられ、転職や仕事探しは大変で、さらに企業は不採算になっても社員を整理することが困難です。

 もちろん、最低賃金の引き上げだけでなく、社会保障改革の面などではアベノミクスはどうしようもない状況にあり、また、国内の労働力が足りないからと入管法を改正してしまい、海外から安い給料でも頑張る働き手がいっぱい入ってきた結果、外国人の給料の安さに引っ張られて国内で働きたいがスキルのない日本人の給料がむしろ上がらないという問題を起こしてしまっています。アベノミクスの問題点は、構造的な諸問題に対する脊髄反射的で場当たり的な政策を垂れ流しており、日本の国内経済や社会をどのように導いていくのかというグランドデザインが致命的に欠けていることにあると思うんですよね。