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“おひとりさまデモ”をインスタにアップする新しい抗議の形

 もうひとつ異例だったことは、抗議デモの新しい形だ。

 ロシアでは、集会を行なうには10日前までの申請が必要で、無許可で集会をすれば拘束されてしまう。ロシア関連のニュースで一般市民が警備隊に連行されていく場面がしばしば目にされるが、これは警告に反して無許可のデモに参加したためだ。

 しかし今回は、機転を利かせ、通行人が個々に警察本部の建物の前を通り、ほんの少し立ち止まっているだけだと主張してデモ活動を行なった。「私/私たちはイワン・ゴルノフ」の新聞を掲げる者、思い思いにメッセージを書いたプラカードを掲げる者、ひとりずつが順番に警察本部の前に立ち、無言で抗議の意志を示した。文字通り、Я(私)であると同時にМы(私たち)でもあるわけだ。

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「次は誰?」とのメッセージを掲げる女性。捏造による逮捕は誰にでも起こりうる

 この“おひとりさま”の抗議デモはインスタグラム上でも話題となり、日を追うごとに拡大していった。記者の解放を求めて、同時に”インスタ映え”も求めて、聖地となった警察本部のあるペトロフカ通り38番地には順番待ちの行列ができあがった。

  何も場所は警察本部前に限らなくてもよく、ゲリラ的にひとりひとりがそれぞれの場所でメッセージを掲げ、インスタグラムに写真をアップする。「#свободуголунову(ゴルノフに自由を)」のハッシュタグでつながることで、Я(私)がМы(私たち)になる。ネット時代らしい新たな形態の抗議活動が出来上がった。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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 その勢いのままに、今度は6月12日に記者の解放を求めるデモ行進が計画された。最寄りの地下鉄駅を起点として、連邦保安局の前を通り、警察本部を目指すルート。当日は「ロシアの日」という国民の祝日で、参加者は数千人規模になると予想された。もちろん無許可であるが、主催者はあくまで自然発生的なものだと主張した。

6月12日の無許可集会の様子。学生をはじめ若者たちの参加が目立った

ロシアでは前代未聞、逮捕を取り下げ

 事態を重く見たウラジーミル・コロコリツェフ内相は、デモ行進前日となる11日、証拠不十分による捜査打ち切りと記者の自宅軟禁解除を突如発表。警察幹部2名を更迭処分とすると述べた。世論を前に逮捕を取り下げるという、これまたロシアでは前代未聞のことであった。政府は異例の対応で早期収束を図ろうとした。

解放されたイワン・ゴルノフ記者 ©AFLO

 この結果を民主主義の勝利だと喜ぶ向きも多い。たしかに、過去例を見ないメディアの連帯や抗議デモなしに、ここまでの成果は得られなかったはず。声を上げなければ、おそらくは政府高官の汚職の真相も何もかも、濡れ衣を着せられた記者ごと闇に葬られていただろう。