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ノンフィクション作家・保阪正康が語る「『昭和史』からの教訓と、平成の天皇との私的な懇談」

保阪正康インタビュー #2

2019/06/30
note

昭和の軍人・東條英機と安倍晋三首相は似ている?

――似ている話で言うと、昭和の軍人・東條英機と安倍晋三首相は似ているとよく言われます。

保阪 それは似ていますね。

――この二者の比較というのは、どうなんでしょう。

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保阪 東條と安倍が似ている点をあえて言えば、たった一つ、どちらも本を読まないということです。東條も本を読みませんでした。軍事以外はほとんど関心がなく、自身の演説についても秘書が、大日本言論報国会の会長だった徳富蘇峰のところへ持って行くんです。それで蘇峰が手直ししたり、秘書がルビを振ったりしていた。これは公然たる事実です。そんなことを揶揄しても仕方がないけれども。本を読んでいない人の怖さというのは、行動はどこで止まるんだろう、どこで自制心を働かせてブレーキをかけるのだろう、というのが分からないところです。

――安倍首相は長期政権を築いていて、東條よりもはるかに長く権力の座にいます。

保阪 一つ思うのは、安倍政権はこれほど長く続いていながら、何も実績を残していませんよね。空虚さとか、何か形骸化したものを感じます。例えば吉田茂は講和条約締結を、池田勇人は高度経済成長を、田中角栄は日中国交正常化を実現しました。歴代首相は、何かを得るために相当努力を重ねてきたと思います。もっと言うと、安倍政権の責任は、安倍首相ではなく、その前の民主党政権にある。民主党政権への絶望が、安倍政権の長さに比例しているんです。

 

うそを言っている人の証言にはある共通点が

――保阪さんは、それこそ首相から皇族、軍部の指導者、いち兵士まで、これまで4000人以上の人々へインタビューを続けてこられました。時に真実でないことを語る人もいたと思いますが。

 

保阪 多くの証言する人に会うなかで、そこに法則のようなものがあると気がついて、勝手に「1対1対8」と名付けています。1割は本当のことを言う。1割は初めからうそを言う。8割は、僕を含めてごくふつうの人たちです。記憶を美化したり調整したりして、無意識のうちに事実と違うことも含めて言う。

 うそを言っている人、あるいは記憶を間違えているような人の話には共通点があって、ある一点がものすごく細かいんですね。例えば、瀬島龍三氏の場合は、相手の知識に応じて語るんです。例えば、「12月1日、開戦の1週間前、僕は車に乗って皇居に行ったんだけど、雪が降っていてね。ああ、真珠湾は大丈夫かな、と思った」と話す。よく事情を知らない人は「車に乗って皇居に行った」と聞いて、この人は大物なんだなと思いますよね。ところが僕は、「瀬島さんはその時、杉山元参謀総長のかばん持ちで、ちょっと同乗していただけですね」と返すと、「うん、そうだよ」と平気で言う。