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昭和史と切り離せない人物 平成の天皇との私的な懇談

――今まで保阪さんが会われた人の中で、昭和史と切り離せない人物という意味では、平成の天皇が挙げられると思います。インタビューではなく、私的な懇談という形でお会いになったにせよ、これはどういう体験でしたか。

保阪 御所の応接室で、作家の半藤一利さんと一緒に上皇ご夫妻とお会いする機会が何度かありました。テーマを決めてあるわけではなく、雑談をするといった感じの懇談でした。僕が驚いたのは、上皇陛下の昭和史に対する知識は点と点になっていて、線にはなっていないということです。例えば、満州事変の話題になった時、どうやら過去の認識でお話をされているのかなと思いました。

 

――書庫から、古い書籍を持ってきたそうですね。

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保阪 そうです。思わず「陛下、大変失礼ですけれども、どういう本をお読みでございますか?」とお尋ねすると、上皇陛下は書庫から本を持ってこられました。お持ちいただいた書籍の奥付を見てみると、昭和8(1933)年の本だったんです。「この時から史実は大きく変わっています」と半藤さんとご説明した覚えがあります。

戦争の拡大を望まなかった昭和天皇

――戦後70年の節目であった2015年、新年のご感想の中で、平成の天皇は「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」と述べました。

保阪 これは僕の想像にすぎませんが、あのお言葉を聞いた時、陛下は何か特別の意味をこめられていらっしゃるのではないかと思いました。満州事変の時、先帝である昭和天皇はこの事変に不快感を持ち、戦争の拡大を望みませんでしたが、それにもかかわらず、なぜ軍は拡大路線をとったのか。このことを国民に考えてほしいという思いをお持ちだったのではないでしょうか。

 新しい時代の日本が向かう道について探る時、まずは現実と向かい合って学びつくすことから始まると思います。その中にはもちろん昭和史も含まれます。現代との安易な相似点を探すのではなく、複雑な歴史的事実を見つめることが必要でしょう。「自分たちは間違っていなかった」と言い募るのではなく、謙虚に歴史との対話の努力を続けるしかないと思いますね。

 

写真=佐藤亘/文藝春秋

令和を生きるための昭和史入門 (文春新書)

保阪 正康

文藝春秋

2019年6月20日 発売