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「もしかして、救急車を呼んだのは早すぎたか……?」

 ソファに倒れ込んで息も絶え絶えの恋人を前に、気は動転するばかり。自分の不用意な発言が招いた事態に、彼も血の気が引いていく。

 そうこうするうちにE子さんの意識が途絶えた(ように見えた)。

 彼は躊躇せず119番に助けを求めた。

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 通報から10分もしないで救急隊が駆け付けた。隊員の呼びかけにE子さんの反応はない。でも心臓は動いている。浅いとはいえ呼吸もしている。救急車に乗せられて、病院に向けて走り出す頃には意識も戻り、隊員の問いかけに小さな声で受け答えをしている。

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 一緒に救急車に乗り込んだ彼の脳裏を不安がよぎる。

「もしかして、救急車を呼んだのは早すぎたか……?」

 救命救急センターに担ぎ込まれ、血液検査と並行して脳波と心電図、血圧など一通りの検査をする。彼としては救急車を呼んでしまった手前、何か(軽めの)病気が見つかってほしい。

 しかし、異変は見つからなかった。

 下された診断名は「過呼吸症候群」だった。

痙攣や意識を失うこともある「過呼吸症候群」

「典型的なストレス障害の一つです。強い精神的なストレスが引き金となってパニック障害に陥り、自然な呼吸ができなくなるのです」

小泉健雄医師

 と語るのは、杏林大学保健学部救命救急学科元教授で、現在は東京・杉並区の浜田山ファミリークリニック院長を務める小泉健雄医師。男性にも起こるが、圧倒的に女性、しかも若い世代に多く見られるという。

「ストレスの原因は様々ですが、若い女性の場合は、自分の存在を認めてもらえない――という不満や不安が原因になることが多い。浅い呼吸から始まって、体内の二酸化炭素量が減って色々な症状を引き起こす。強い緊張から交感神経が一気に高まるので、頻脈や痙攣を引き起こすこともあり、意識を失うことも珍しくない。事情を知らない人が見たら驚いて救急車を呼ぶでしょう」

 事実、小泉医師によると、過呼吸で救急搬送されてくる人は少なくないという。

「過呼吸による意識の喪失は一時的なもので、落ち着きを取り戻せば意識も戻ります。特に救急車に乗ると“救急隊に見守られている”という安心感で症状が治まっていくことが多い。救急搬送されてくる過呼吸患者の大半は、病院に着く頃には治っているんです」(小泉医師)