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「オッパイ揉む」「女買いたい」なぜ政治家が“下品力”を競う時代になったのか

「オッパイ揉む」「女買いたい」なぜ政治家が“下品力”を競う時代になったのか

佐藤優×片山杜秀“知の巨人”対談

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山本太郎はアメリカのサンダースに似ている

佐藤 最近、タクシーのなかで広告がでていますね。「英語ができないと大変なことになる」といった類いの動画です。あれは、脅迫としての教養ですよね。上昇しよう、上昇しよう。そのためには教養が必要だ。そうではなくて、中産階級から転落しないためにはおまえら教養だよ――という形です。ある種の脅迫としての教養で、結局、教材なりアプリを売りつけようとしているわけでしょう?

片山 そうですね。品がありません。むしろ粋など高望みしなくとも、「恥」という概念さえ残っていれば、こういうことにならなかったはずなんでしょうけど。いま、諦めもなければ恥もない時代です。

 とにかく、ピンポイントで確実にウケる人たちさえいれば、他の人がどう思おうと関係ないというところまで来てしまっています。

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佐藤 そうです。これも、片山さんとの共著『現代に生きるファシズム』でさんざん話したテーマですけど中産階級の没落がもたらす悲劇を、まさに私たちは味わおうとしている。

片山 中産階級もなければ、組合や学校といった中間団体もなくなっている。日本人はアトム化(孤立化)する一方です。参院選も近いですが、そうしたなか選挙が行われても、まともな政治家は出てきませんよ。

佐藤 いまや有権者も、基本的には新自由主義なマーケットと一緒です。一人ひとりがバラバラの「個」で、数だけが評価される。一定の数を得るために、強い意見を言ったもの勝ちの雰囲気がある。NHKから国民を守る党なんて、まさにそうですよね。

 内情はよく分からないけども、世の中に対して怒っている雰囲気だけは伝わってきます。ワンイシューでNHKのことだけを訴えて、統一地方選で26人も当選したわけです。どちらかといえば右からのポピュリズムの要素があると思うんです。NHKが敵だと、人民の敵だと連呼しているわけだから。

 一方、左では、山本太郎氏の「れいわ新選組」に注目が集まっています。彼の立ち位置は、米大統領選のサンダースと似ている部分がありますよね。

「れいわ新選組」の山本太郎氏 ©AFLO

片山 そういう政治家が両翼から出てきている。そのときそのときに一番言ってほしいことを言っては、一番危機感を感じる人の支持を集める。しかし、下品な態度で支持層をさらっても政治家としての地力がない。だから、丸山氏のように何かをやらかしては、次の下品な政治家と替わっていくわけでしょう。誰もが長続きしない。ポピュリズムがもたらす悪夢は、欧米の一部の国では日常風景になりつつあります。

 次の参院選は、日本がそうした負のスパイラルに陥るかどうかの一つの試金石になるかもしれません。

※本対談は、『平成史』『現代に生きるファシズム』の刊行イベント(紀伊國屋ホール)で行われた対談をもとに、再構成しています。

平成史

佐藤 優

小学館

2018年4月25日 発売

 

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