「家がどんどん解体されています。このうち、どれだけ再建されるのか。集落の人数が半分ほどになってしまうのではないかと、本気で心配しているんです」

 70代の女性がため息をつく。あたりは住宅の公費解体が真っ盛りだ。あちこちで重機の音が響く。

 岡山県倉敷市真備町は、昨年の西日本豪雨で最大5メートルほど浸水した。昨年7月6日深夜からの洪水で、市街などが丸呑みにされ、51人が亡くなった。

ADVERTISEMENT

「晴れの国」宣伝が油断を生んだ?

 あれから1年が経つ。だが、住宅再建はなかなか進まない。もう水害が起きるような場所には住みたくないと出て行く人だけでなく、再建資金を捻出できない人が多いのである。

 岡山県が「晴れの国」などと宣伝していたせいもあって、よもや水害に遭うとは思わず、「水災」の保険に入っていなかった人がいるのだ。自宅の建て直しには最大300万円の公的支援制度などしかなく、「これでは再建できない」と諦め、地域外へ流出する人が出始めている。

公費解体される被災家屋(倉敷市真備町)

農業倉庫の再建には国などが最大9割を助成

 一方、農業倉庫の再建には国などが最大9割を助成している。被災農業者向けの経営体育成支援事業という手厚い制度があるからだ。

 その差はあまりに大きい。

「倉庫は建て直せても、自宅を再建できない」と指摘する大工がいるほどだ。「これで本当にいいのか」と漏らす市職員もいる。

 真備町の自宅が全壊した会社員、河田真作さん(42)も両制度の間で複雑な思いを抱えてきた一人だ。

 あの日、7月6日――。河田さんが職場から帰宅したのは午後11時半頃だった。

「凄く雨が降っていたので、近所の川の様子を2~3回、見に行きました」

 真備町には、2本の一級河川がある。

 町の東端に沿って、岡山三大河川の高梁(たかはし)川が、縦に流れている。

 その支流の小田川が、町の南部を横に貫き、高梁川に合流する。支流と言っても、河川延長は72.9キロメートルもあり、真備町内では他に何本もの小河川が流れ込んでいる。

小田川。広い河川敷は草に覆われている

 その小河川の一つ、末政川が河田さんの家から100メートルほどの場所を流れていた。これが気になったのだ。

「堤防の天頂までは50センチほど余裕がありました。なのに、どうしたことか、警察官が来ていて、近所のおじさんが『うちはさっき浸かった』と話していました」