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全壊した家を修繕するには1000万円かかる

 持ちこたえられたのは会社や野球の仲間が手伝いに来てくれたからだ。涙が出るほど嬉しかった。そうした時、「保険に入っているのか」と尋ねられて、「しまった」と思った。

「よもや水害に遭うとは考えもしなかったのです。保険業を営む同級生にも、『この辺で水災保険に入る人はほとんどいない。保険料も倍になる』と聞いていました」

 家は全壊と判定され、大規模な修繕が必要になった。ローンは約2400万円も残っている。にもかかわらず、新たな修繕費が1000万円ほどかかると分かった。これから3人の子の学資がかかるのに、暮らしていけるのか。

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探偵・金田一耕助の像。真備町には戦時中、推理作家の横溝正史が疎開していた。

 大規模災害の被災者には、被災者生活再建支援法に基づく支援制度がある。住宅を建て直したり、購入したりする場合、最高300万円が支給される。河田さんのような修繕では最大200万円だ。

 河田さんは、同じように被災した友人に「電化製品など生活必需品をそろえるだけで160万円の見積もりになった」と聞いて、愕然とした。これでは家の修繕どころではない。

 全国から寄せられた義援金は、162万7200円が配分されたが、修繕費用にはほど遠かった。

老後の蓄えをつぎ込んでも足りない

 河田さんは、一般社団法人「自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関」に相談した。ローンで破産しかねない人が、専門家の紹介を受けて、金融機関と協議する。

 これに基づき、土地などの資産を原資にして債務を整理すると、ローンが一部免除される見込みが立った。晩夏には簡易裁判所で特定調停が確定する見込みで、自宅の修繕に向けて踏み出せる。

横溝正史の疎開宅は今でも保存さ れている。高台にあり浸水は免れた(倉敷市真備町)

「修繕費用の借金はダブルローンになりますが、暮らしを取り戻す目途はつきそうです」。河田さんは胸を撫で下ろす。

 一家は今、2カ所に分かれて住んでいる。河田さんと妻子の5人はアパート、両親は親類の空き家だ。だが、自宅が修繕できても、両親は戻れない。7人で住むには狭すぎるのである。

「破損が大きかった母屋は解体せざるを得ませんでした。父は跡地に小さな平屋を建てたいと話しています。それには老後の蓄えをつぎ込んでも足りません。なのに10月には消費税が上がってしまいます」と、河田さんは表情を曇らせる。