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30歳~50歳を中心に「視野が狭くなる」「ぼやける」などの症状

 眼科クリニックを受診すると、眼底検査とOCT(光干渉断層撮影)という検査が行われた。眼底検査とは、目薬で瞳孔を開いて、専用のカメラで目の奥(眼底)の状況を観察する検査のこと。OCTとは、赤外線を照射して、反射する光の強度などから網膜の断層を三次元的な画像として映し出す検査だ。

 どちらの検査も短時間で終わった。検査そのものは痛くも痒くもない。そして、その場で言い渡された診断名が、先に挙げたCSC、つまり中心性漿液性脈絡網膜症だったのだ。

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「CSCとは、網膜の中心にある“黄斑部”の下に水が溜まり、網膜剥離を起こすことで視野に異常が起きる病気です。視野の中心部が暗くなったり、ぼやけたり、実際よりも小さく見えたりするもので、30歳から50歳あたりの年代で多く見られる病気です」

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CSCで発症する「網膜剥離」は少し違う

 と語るのは、横浜市青葉区にある「たまプラーザやまぐち眼科」院長の山口大輔医師。

山口大輔医師

 そもそも「網膜」とは何なのか。山口医師に続けて解説してもらおう。

「網膜とは、目の壁の内側で光を感じる細胞が集まっている膜のこと。その中心で視力を出すのにとても重要な部分が黄斑部です。CSCは、この黄斑部の網膜が剥離して浮き上がる(むくむ)ことで、視野の一部が暗くなったり、歪んで見えたりする病気。“網膜剥離”の一種です。むくむ厚さはミクロン単位ですが、その分眼球の内側が狭くなるので、屈折度(近視などの度数)にも変化が生じることがあります」

 網膜剥離というと、ボクシングの選手などがかかる「外傷性」の病態を想像しがちだが、CSCが起きるメカニズムはそれとは異なる。

「網膜の外側を“脈絡膜”という血管の多い膜組織が覆ってます。網膜と脈絡膜の間には“網膜色素上皮”というバリア組織があるのですが、何らかの原因で、脈絡膜の血管の異常が起こり、血液の液体成分である“漿液”が脈絡膜側からこのバリアを越えて、網膜の下に流れ込んで網膜を浮かせる、つまり“網膜剥離”が起きるのです」

 これで長い病名の説明がついた。この症状が網膜の「中心」で起きるから「中心性漿液性脈絡網膜症」でいいのだ。命名者に敬意を表したい。