別府温泉といえば、日本人なら誰もが知る温泉の代名詞のような存在だ。別府温泉という名称は大分県別府市内に存在する数百にものぼる温泉の総称で、「別府八湯」と呼ばれる別府、浜脇、観海寺、堀田、明礬(みょうばん)、鉄輪、柴石、亀川に代表される。湯の湧出量では日本一どころか世界1位を誇る。

観光客が減少し「昔のリゾート地」に

 別府温泉の名が全国的に知られるようになったのは別府観光の父とも呼ばれる実業家、油屋熊八の手によるものだ。彼が「山は富士、海は瀬戸内、湯は別府」というキャッチフレーズを考案し、全国を行脚しながら立て札を建立して回ったことで別府温泉が日本人の多くに知られるきっかけとなった。

ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパからの絶景(撮影:牧野知弘)

 しかし、この温泉を訪れる観光客は平成に入って減少を始める。別府温泉は静岡県の熱海温泉などと並び、企業の社員旅行に代表される「団体旅行」が主体だったために、個人旅行へと軸足を移しつつある国内旅行客のニーズからは徐々に離れていくことになったからだ。

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 逆にそれまではひなびた温泉地でしかなかった湯布院に客足を奪われるようになり、日本人にとって別府は「名前は知っているけど、今さらね」といった感覚の「昔のリゾート地」となっていた。

PRビデオ「シンフロ」で話題沸騰

 そんな別府温泉が今、熱くなっている。背景は増加し続ける訪日外国人客(インバウンド)と、JR九州が運行する「ななつ星」に代表される富裕層観光の活発化だ。

 大分県は15年5月に別府市のPRビデオ「シンフロ」を発表。シンクロナイズドスイミング(現在の呼び名は「アーティスティックスイミング」)を温泉風呂の中で行うという奇想天外なストーリーと映画並みの演出、高品質な映像でおおいに話題になった。このプロモーションビデオは大分空港のロビーでも繰り返し流され、空港を訪れる多くの観光客の目に留まることとなる。

大分県「シンフロ」