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「母親なのにどうして働くの?」カネカ騒動で考える、育休をめぐる女たちの戦い

『日本の天井 時代を変えた「第一号」の女たち』より

2019/07/12

 先日、東証1部の化学メーカー、カネカに勤めていた男性社員の育児休業(育休)取得をめぐって、ある騒動が巻き起こった。

カネカによる“育休直後の転勤辞令”の時代錯誤

 元男性社員側の主張によれば、育休明けの直後に会社側から突然、転勤を命じられた。妻も働いており、子どもの保育状況や自宅の購入といった諸事情から、この急な転勤に応じられず、やむなく退社するしかなかったという。

 元男性社員の妻が経緯をツイッターに投稿すると、「育休を取った男性社員に対する見せしめ」、「パワハラにあたるのではないか」と一斉に非難の声が上がり、カネカの株価までが下がるという事態に至った。同社はホームページで「育休前に、元社員の勤務状況に照らし異動させることが必要であると判断しておりましたが、本人へ内示する前に育休に入られたために育休明け直後に内示することとなってしまいました」と対応に問題はないと発表したが、非難の声はなかなかおさまらなかった。

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カネカによるおしらせ

 育児休業制度は働く女性たちの、必死の訴えによって、ようやく日本社会に定着した。現在は、もちろん男性でも取得できる。しかし、現実には、男性の育休取得率は女性に比べてずっと低い。内閣府の調査によると2017年度で、女性の取得率は83.2%、男性は過去10年で最高ではあるものの、5.14%となっている。育児は女性が担うものという社会通念があり、また、男性が育休を取ることに対しては、まだまだ企業も日本社会も寛容ではないということなのか。

 かつては育休という制度はもとより、女性たちには企業に雇用される権利すら与えられていなかった。たとえ入社できたとしても、結婚や出産を機に退職するのが条件であったり、女性だけに30歳の定年が設けられていたりと、今では信じられないような女性差別が平然とまかり通っていた。

 そんな男性社会の価値観と戦い風穴を開けて、後世の女性たちに育休や雇用の平等という恩恵を残してくれた先人たちがいる。『日本の天井 時代を変えた「第一号」の女たち』(KADOKAWA)では、そうした先駆者たちの業績を、肉声とともに紹介した。

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©iStock.com

 石原一子は女性として初めて、一部上場企業で(創業者の血縁ではなく)役員になった。当時の企業は完全な男社会、女性が働き続けること自体が異例であった。石原は働き続けるために、個人として育休の権利を会社に主張して認めさせた女性でもある。

 1924(大正13)年、中国東北部(かつては、満洲と呼ばれた)の生まれ。東京女子大学に進学するために内地(日本)に初めて来るが、最初に感じたのは違和感だったという。