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「安倍さんはレガシーをつくった」進次郎から飛び出した発言は何を意味するのか

自民党の看板弁士は豹変した――ルポ参院選2019 #5

2019/07/18
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「頼みの綱」の公明党関係者はほとんど来ていなかった

 7月11日夕方、甚大な津波被害を受けた宮城県石巻市に現れた小泉は、制限時間ギリギリまで聴衆とのふれあいに時間を割いた。その姿を遠くから眺めていた地方議員は、私にこうつぶやいた。

「やっぱり人が集まらないな」

 平日とはいえ、開始時間は会社勤めの人も駆け付けやすい17時半に設定したはずだった。終了後に仙台駅から新幹線に飛び乗る小泉の事情に配慮して、「舞台」はインターチェンジの近くにある海運会社の駐車場内に用意された。

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 地元の政界関係者によれば、当初は、近くにある複合商業施設の巨大駐車場を予定していたが、開催の3日前、店側から断わられた。弁士が「小泉進次郎」だからだ。ギャラリーが大挙して押し寄せ、お店の営業に支障をきたすことを恐れたためである。

 ところが、定刻に近づいても思うように人が集まらない。天気は良いのに、会場に集まったのは300人ほどにとどまったのである。そのうちの1割強は、地元県議が動員した後援会メンバーだった。自民党が「頼みの綱」とする地元の公明党関係者はほとんど来ていなかったようだ。

 

 会場の蛇田地区は、かつて津波で家を失った人々が身を寄せるプレハブの仮設住宅があった地域である。小泉が懇意にしていた家族もそこに避難していたので、私も彼の行動を追いかける中で何度も取材に訪れたことがある。

 今回、久々に再訪すると仮設の跡地には5階建ての復興住宅がいくつも立ち並んでいた。住民曰く、震災の前は14000人ほどだった一帯の人口は、1.5倍に膨れ上がったという。

「おー、久しぶり」「あー、あのお祭りでお会いしたお父さん」……。

 小泉は到着するなり、一人ひとりと再会を喜び合い、感嘆の声を上げた。だが、街宣車の上から見たら、会場がスカスカに見えたのだろう。

小泉は「令和おじさん」の“裏”を任されていた

 被災者たちに向かってこんなことを口にした。

「残念なのは、参院選挙を今やっているということを知らない人が結構います。えーっと思う方は、これウソじゃない。仙台の駅前であるNPOが若い人たちを対象に聞いた調査では4人中3人が投票日を知らなかったんですよ。そういう状況です」

 

 同じ頃、仙台の駅前では官房長官の菅義偉がマイクを握っていた。そこから車で1時間ほどの距離にある石巻に立っていた小泉は「令和おじさん」の“裏”を任されていたのだ。

 今回の全国行脚では、菅が入った選挙区に後から小泉が入ったり、近くで相手陣営の演説が行われる時間にぶつけて投入されたり、不在の候補者に代わってその地域で後日開かれる集会の事前告知を任されたり、まるで「便利屋」のような使われ方が目立つ。

 前出の石巻でも同じ時間帯に相手陣営の決起集会が開かれようとしていた。小泉には移り気な無党派層を自民党側に引っ張り寄せる「客寄せパンダ」の本領発揮を求められていたのである。

 

 それが――。

 私は「小泉進次郎」を観察し続けることは、2020年代の自民党政治を想像する上で安倍や菅を追うよりも有意義だと思って取材を続けてきた。だが、今回は菅が主役で、小泉は脇役だ。それだけに「独自色」を出しすぎてはいけないと自分をセーブしているのだろう。

 それにしても、以前のように「語り」の質が進化していかない。どんなに小泉の演説を聞き続けていても、多くの人に伝えたい、書き残したいと思える「闘う言葉」にはなかなか出会えない。

 そろそろ密着取材をやめようかな――。そう思った矢先にハプニングは起きた。

写真=常井健一

(文中一部敬称略)

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