「神よ、マイケルをこの世に戻してくれ かわりに、トランプ大統領や(性的虐待容疑で逮捕された歌手)R・ケリーを連れていけばいい……」
(ジョイナー・ルーカス『Devil’s Work』)
この曲が、マイケルを善の側に置いたことで大々的にバッシングされることはなかった。議論を呼んだのは、政治思想が異なる人々の死を願う箇所だ。たった2ヶ月前は、スターバックスが店内BGMにマイケルの歌を入れていただけで「取り下げ騒動」が行われていたのに、人々の関心はすっかり次のトピックに移っていた。
スターの疑惑、起用した企業はいかに対応すべき?
近年、炎上に巻き込まれた有名企業の間では、検証や世論が落ち着く前の段階で謝罪し悪評を排除する対応が常態化している。ドキュメンタリーの信頼性や炎上の問題はたびたび議論されているが、こうした企業対応の是非──またはほかの対応策──についてももう少し語られて良いかもしれない。
一方、ヴィトンやスタバと異なり、静観していた存在が音楽企業である。AP NEWSによると、多くの音楽産業幹部が「キング・オブ・ポップのレガシーは滅びない」と断言しているようだ。
今のところ、彼らの予言は的中しそうだ。同記事で取材されたオークション会社CEOによると、今でもマイケル関連のアイテムは世界中で絶大な人気を誇っており、その需要に匹敵するセレブリティはマリリン・モンローただ1人とされている。
ドキュメンタリー公開後、マイケルの楽曲の消費は増加
ニールセンのデータでは、ドキュメンタリーが話題になった2019年前半期、マイケルの楽曲ストリーミング消費は前年比41%も増えている。彼と同じく告発ドキュメンタリーが話題になった大御所歌手R・ケリーの増加分が13%だったことを考えれば、相当な数字だ。
マイケル・ジャクソンの強大なレガシー。それは、偉大なるアーティストとしての遺産であり、死後10年経っても注目されつづける圧倒的なスター像である。その需要を示すように、6月には新たなドキュメンタリー『Killing Michael Jackson(マイケル・ジャクソン殺害)』がイギリスで放送されている。今度は打って変わって被害者としての像が打ち立てられ、疑惑の死の真相が追われるようだ。かつて、タブロイド紙に追われつづけたマイケルは「もうほうっておいてくれ(Leave Me Alone)」と歌ったが、世界はまだまだ彼のことを放しそうにない。