「不正に陰謀 うんざりだ」
「君の嘘にはもう疲れた そういう語り方は混乱を呼ぶ それがいいんだろ?」
(マイケル・ジャクソン&ジャネット・ジャクソン『Scream』)
20世紀最大のスター、マイケル・ジャクソンの人生は栄光と疑惑にまみれていた。ミュージシャンとして数々の記録を打ち立てる一方、邸宅ネバーランドに招いた「友人の少年」たちへの性的虐待疑惑が浮上。1993年の告発は示談、2005年の裁判は無罪判決に終わったものの、世間のイメージは悪化した。
2009年に逝去すると、FBIが「10年以上調査しても虐待や児童性愛の証拠は見つからなかった」とする捜査ファイルを公開。以降「キング・オブ・ポップ」として讃えられることとなった。
10周忌に性的虐待疑惑が再燃した理由
10周忌となる2019年になっても、マイケルからの影響を語る若手アーティストは絶えることがない。キング・オブ・ポップのレガシーは不滅……そう思われたさなか、再度スキャンダルが勃発する。「マイケルの友人の元少年」2人が性的虐待被害を告発するドキュメンタリー『ネバーランドにさよならを』が放送されたのだ。
これを受けたマイケルの遺族、およびアーロン・カーター等の「マイケルの友人の元少年」は告発者を公に非難。遺産管理団体やファンによる訴訟も話題になった。しかしながら、本作に否定的だった人々は彼らだけではない。番組を視聴したセレブリティ、さらには一般人の間でも「賛否両論」が巻き起こったのである。何故こんなにも反応がわかれたのか? 理由はドキュメンタリー自体の構成にある。
『ネバーランドにさよならを』は、幼少期をマイケルと過ごした告発者ウェイド・ロブソンとジェームズ・セーフチャックとその家族による証言を主体とした約4時間のドキュメンタリー映画だ。家族以外の人々の証言は紹介されない上、監督はジャクソン側への取材すら行わなかったと認めている。#MeToo運動によって逮捕に至ったハーヴェイ・ワインスタインやR・ケリーとは異なり、証拠とされるような記録も無い。
まさに「ファクト重視の中立姿勢」とは対極、視聴者が「告発を信じるか信じないか」を迫られる作りなのである。だからこそ、トップスターから一般人まで、肯定、懐疑、否定派に分裂した。