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「潮風に当たるとボクは元気になる」人口200人の離島で進次郎が久しぶりの笑顔を見せた

選挙戦は「不慣れな猟官運動」だったのか――ルポ参院選2019 #7

2019/07/20
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 19日の昼、小泉はなぜか4日ぶりに年金問題を持ち出した。

「年金は高齢者の問題。それは違います。若い人だって同じです。『どうせもらえないんでしょ?』と思っている方が多い。そんなことありません。年金が崩壊する、破綻すると言っている人がいます。だけど、それは嘘です。世の中おもしろいですよ。前向きなことを言うより不安を煽った方がもっともらしく聞こえるんです。だから、不安を煽る人がいっぱいいるんです。私はそんなことに与さない」(秋田県鹿角市での演説より)

 

 小泉は山あいの駅前で行った演説の中で、「パート」「非正規」「氷河期世代」という単語を口にした。この連載の#4でも指摘したが、選挙戦16日目にして初めてのことである。「私も就職氷河期の世代」とも言った。

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 突然どうしたのだろうか――。

 会場の報道エリアに目をやると、NHKのテレビカメラがあり、近くには東京から来た同局の番記者の姿があった。演説会終了後、小泉は記者に軽く会釈をした。

 その晩、19時と21時のニュースでその映像が取り上げられた。おそらく、小泉は事前に全国放送されることを知らされていたのだろう。私は「彼らしいパフォーマンスだ」と唸った。

 私は今回、小泉が17日間で回った61の演説会場のうち、半分以上の会場に足を運んだ。人気弁士の能弁ぶりに圧倒されるような毎日だったが、社会保障政策の大手術を前にした国民への「インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)」は、自民党厚生労働部会長の口からとうとう果たされることはなかった。

 小泉進次郎という政治家は、誰のために年金制度を改革したいのか、どんな体験をもとに国民の命を預かろうとしているのか。「Who are you?」という疑問が残ったまま、夏の参院選が終わろうとしている。

「政治家イコール政策で世の中が動くわけではない」

 今回、とても印象に残っている小泉の言葉がある。

「政治家にとって一番怖いのは、なんにも声をかけてこなくて黙々と見ている人の眼なんです。一体、応援するという気持ちの眼なのか。それともやっぱりダメだと思って見られている眼なのか。いろんなことを考えて悩みます。(中略)

 政治家イコール政策で世の中が動くわけではない。政治というのは面白いですよ。Aという政治家、Bという政治家、Cという政治家。3人の政治家がいて同じことを言ったとしてもAさんの言うことなら聞こうとなる。最後、政治は人がやるんです。政策は1人ではできません。多数が必要です」(7月13日、愛媛県新居浜市での演説から)

 

 人気先行で「何もやっていない」と言われ続けてきた政治家は今、狂おしいほど「成果」にこだわっている。だが、こうした演説を聞かされると、きっと彼はどんなに言葉を尽くそうと、自分はまだ「Aという政治家」になりえていないという諦念を抱いているのかもしれない。

 全国行脚の移動中、周囲に「明るく行こう」と妙に繰り返している様子を見ながら、私は社会保障をめぐる「体重と体温が乗った言葉」がなかなか繰り出せず、どこか浮かない顔をしている彼の胸の内がずっと気になった。