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「潮風に当たるとボクは元気になる」人口200人の離島で進次郎が久しぶりの笑顔を見せた

選挙戦は「不慣れな猟官運動」だったのか――ルポ参院選2019 #7

2019/07/20
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 小泉が飛島に上陸すると、集まったお年寄りたちから握手攻めの歓待を受けた。「こないだブラタモリが来たんだから、『ブラシンジロー』で行こう」。そんな冗談を口にしながら、若者が営む小さなカフェ「しまかへ」に歩を進めた。そして店員に勧められるがまま、名物の「飛び魚焼き干だしアイス」を頬張った。

 

 その後、小泉は芝生に置かれたビール箱の上に乗り、島の人々に語りかけた。

「今日6年ぶりに来てうれしかったのは、前に来た時にできたばかりだったあのカフェの営業が続いている。スタッフさんも3、4人だったのが今は14人と聞いて、うれしかった。アイスの名前も覚えにくいですね。『とびうおやきほしだしあいす』。言えました!」

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 演説はこう続く。

「飛島は日本で一番早い投票日です。本来は21日ですけど、飛島は島だからと言うことで明日です。今日が期日前投票の最終日。だから、私が来たということもあるんですけど(笑)。さっき聞きました。この島にはもう子どもがいないと。さっき、82歳で現役の漁師さんのナガハマさん、『今日もサザエ取ってきた』と伺いましたけど、この島の(漁師で)最年少の方が50歳くらいですか。ということは、この島は子どもがゼロという悲観的な話ではなくて、私みたいな政治家からすると有権者100%の島だということですよ。何事も見方を変えれば、ゼロが100になる!」

 

 島民の半分に当たる100人近い聴衆を前に小泉がマイクでそう言うと聴衆たちの笑い声が港に響き渡った。

いつものように閣僚選びの目玉候補に浮上するだろう

 結局、島に滞在できたのは約1時間。帰りの定期船に乗り込んだ小泉は座席には付かずにデッキに立ち、船着き場から見送る島民たちが見えなくなるまで手を振っていた。

「日本ってどうしても前例がないことをしたがらない。ボクは前例がないところに前例をつくりたい。そういうタイプ」

 

 そう話す小泉は参院選が終わった後、こんどはどのような「夢」を語り始めるのか――。

 秋にやってくる人事では、いつものように閣僚選びの目玉候補に浮上するだろう。小泉は6月に政府の方針に盛り込まれた社会保障改革を実現させようと躍起だ。今回、これまで距離のあった安倍晋三のことを持ち上げ、「我こそは年金改革の提唱者だ」と言わんばかりの演説を続ける姿は、彼の行動を長く見続けてきた私にとって「不慣れな猟官運動」をしているようにしか見えなかった。

 

 私がかつて期待したのは飛島で見た「潮や土の香りがする小泉進次郎」である。だが今は、なんにも声をかけずに黙々と見ているのが良さそうな時期なのかもしれない――。

 そう戸惑いながら、プライベートな福祉の課題を抱える私は17日間に及ぶ長い旅を終え、地べたを這うような日常に戻ろうとしている。

写真=常井健一

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