SNSから火が付いて、今やテレビも雑誌もこぞって取り上げるタピオカドリンクの大ブーム。取材班がブームの現場を歩くと、苦悩、悲鳴、諦観……と悲喜交々の人間模様があった。

 まずは、タピオカの原料となる「キャッサバ芋」を見てみたい。日本ではあまり馴染みがないキャッサバ芋は、中南米原産のイモノキ属の根茎類。果たして国内で生産している農家はあるのか――。

 取材を進めると、静岡県にこの芋を生産している農家があるらしい。さっそく取材班が向かってみると、ビニールハウスの中に、いまや仕入れ値が3倍に跳ね上がったというタピオカを生むキャッサバ芋の青い葉がズラリと並んでいた。

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取材した静岡県内のキャッサバ畑 ©文藝春秋

「芋のままでも美味しいのに」 

キャッサバ芋農家のAさん(女性、60代)が、この芋との出会いを語る。

「来日してレストランをやっているブラジル人の方と交流があって、8年前くらいからキャッサバ芋を作るようになりました。キャッサバ芋は、南米、東南アジア、アフリカなど、世界中で広く生産されているんですよ。苗さえあれば手間もかからず簡単に育つ。1株植えれば2、3カ月でジャングルみたいになる。日本では冬を越すのが難しいため、春に植えて秋に収穫します。栄養価も高いから、世界の食料危機の救世主と言われています」

 特に南米では、そのまま蒸したり、粉にしたものを水で伸ばして焼いてクレープ状にしたり、さまざまな調理法で日常的に食卓に並ぶという。ただ、シアン化合物を含む皮はむいて食べなくてはならない。種によっては毒抜きの作業が必要だ。

 取材班は採れ立てのキャッサバ芋を使った「素揚げ」を、Aさんにご馳走になった。サツマイモやジャガイモより弾力感があって、モチモチしたフライドポテトのような食感。塩を振らなくても味があっておいしいかった。

一株からこんなに獲れる ©文藝春秋

「南米では、もちろんタピオカにして使うのではなく、芋として調理して食べます。一方、タピオカは、この芋からでんぷんのみを抽出したもの。ブラジル人からは『タピオカがなんでそこまで人気なのかわからない。芋のままでも美味しいのに』といわれます。私たちとしては目の前に芋はあるので、せっかくのブームに乗っかりたいけど、タピオカに加工する機械も技術もないんですよね……」(同前)

 では、ブームの最前線に立つタピオカドリンク店の内情はどうか。