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吉本興業はいつから、どのようにして”国策企業”にまでなったのか?

速水健朗×おぐらりゅうじ すべてのニュースは賞味期限切れである

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「言葉を支配する」吉本興業が”国策企業”に生まれ変われた背景

おぐら で、ようやくここからが本題。いまや吉本興業は芸能界の一大勢力というレベルではなく、国策企業なんです。芸能界での影響力を背景に、日本の空気を作り出していると言っても過言ではない。話はだいぶ遡りますが、まずはコミュニケーションの基本となる、言葉の問題。たとえば、テレビ局のアナウンサーが方言やイントネーションを標準語に改めるなか、芸人だけはずっと関西弁を話していますよね。関西弁の普及は、吉本マナーを全国に展開させるための第一歩です。

速水 たしかに、関西弁がこんなに全国へ広まったのは、吉本興業の影響だ。

 

おぐら テレビの絶大な影響力を使って関西弁が全国に普及したあとは、芸人の間で使われていた「ボケ」「ツッコミ」「フリ」「オチ」「ウケる」「スベる」といったお笑いの専門用語を一般層にまで流通させます。

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速水 もはや誰でも使ってる。言葉の支配は人心掌握術としてかなり効果ありそう。

「お笑いって高尚なんだ」ダウンタウンが作った芸能界の下克上

おぐら 言葉の流通に成功した次は、芸人の地位向上です。これはダウンタウン、松本人志の影響も大きいのですが、とにかく「おもしろいやつが正義」的な、おもしろ至上主義の思想を広めました。ダウンタウンは『HEY!HEY!HEY!』などで、どんなに人気のミュージシャンがゲストに来ても、イジって叩いて笑いに変えた。相手が俳優でもスポーツ選手でも、たとえ大御所や巨匠だとしても、その強硬な姿勢を崩さず、芸人の優位性を誇示していたのが90年代から2000年代。

©文藝春秋

速水 それまでは芸能界の中でも、芸人は歌手や俳優とは同列に扱われてなかったよね。あくまで下の存在だった。それがダウンタウン以降、芸人の地位も向上して、なんなら「お笑いって高尚なんだ」と思う人が増えたのは納得。

「芸人のマルチプレイヤー化」で一躍”モテ職業”に

おぐら 近年の「笑ってはいけない」シリーズで、芸能人が次々と体を張って笑いをとるようになったのは、そういった活動の集大成にも思えます。そして、2001年にはじまった吉本主催の『M-1グランプリ』では、娯楽だった笑いを競技化させ、芸人を一流のアスリート、あるいはヒーローのように扱うことで崇高な存在に押し上げた。日本全国に、お笑いってすごい、芸人ってかっこいい、そう思わせることに成功します。同時に、数多くのバラエティ番組で、その卓越したトークスキルを披露し、芸人は頭の回転もはやく、全方位的に優秀であることを見せつけた。もうこの段階になってくると、たとえば「理想のタイプは?」みたいな質問に対して、「優しい人」や「かっこいい人」を凌駕する勢いで「おもしろい人」がランクインするようになる。ここから一気に芸人たちはバラエティ番組を飛び出し、俳優として評価されたり、情報番組の司会やコメンテーターにまで仕事を広げていきました。

速水 万能なマルチプレイヤー化していったんだ。だってもういまの時代、芸人は完全にモテ職業でしょう。だから蒼井優と山里亮太が結婚してもみんな大絶賛したわけで、佐々木希が渡部建と結婚しても何の違和感もない。