”芸人”の多種多様化とともに変化する「NSC入学希望者」
速水 そもそも、そんなに芸人を抱えることになったのは何でなの? ほとんどの芸人が、養成所であるNSCに入学して、そこから吉本に入るという経緯だと思うんだけど。
おぐら NSCが儲かるからですよ。入学金と授業料で学費は年間40万円ほど。そこに毎年何百人という入学志望者がやって来る。面接などの試験はありますが、よっぽどのことがなければ合格するので、会社にとっては大事な定期収入になります。さらに、芸人の地位向上と多才化に成功したいま、入学志望者も多種多様。明るくて元気なクラスの人気者や、飲み会で「からの~?」とか「で、オチは?」みたいな芸人用語を積極的に使っていたような自称“盛り上げ担当”みたいな人、単純に芸人はモテると思って志望する若者もいれば、稼げる職業として選ぶ人もいます。もしくは、芸人が完全に市民権を得たあと、クリーンなお笑いの影響を受けた真面目な人たち。このタイプは、大学のお笑いサークルとかに入って、お笑い好きの仲良しグループでお笑いライブに通っていたような人たちです。
速水 松本人志のお笑い論に影響を受けたような、お笑いマニアはもういないんだ。
おぐら 2018年の「M-1グランプリ」で優勝した霜降り明星の粗品は典型的なお笑いマニアのタイプですが、数としてはかなり少数派だと思います。「お笑いで天下を取る」的な骨太な動機よりも、モテる稼げるチヤホヤされる的な軽い動機のほうが大多数。だって、教室の隅っこでひたすらネタ帳を書いていたような、個性と作家性に溢れる才能のある芸人が、ようやく「キングオブコント」の決勝にまで進んでも、それ以降メディアではほとんど活躍できていないのが現状ですよ。それよりも、バラエティ番組で明るく楽しく芸能人と絡んでいるほうが芸人の活動として目につく。志望者の質も変わってきますよ。
速水 しかもそういうタイプのほうが現に活躍できるんだから、当たり前っちゃ当たり前だね。
おぐら もちろん、劇場やライブハウスに目を向けると、芸人の質や状況も違うんですけどね。ちなみに、動機が軽いタイプでも、さっき話した上岡龍太郎の言っていた「社会のはみ出し者」とはまったく違います。あくまで“ノリがいい”程度で、アウトロー気質ではありません。